道徳自警団は「魔女狩り」と同じ。なぜ不倫報道ばかりに熱狂しバッシングは暴走するのか?

社会

公開日:2020/5/29

『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』(古谷経衡/イースト・プレス)

 昨今、勝手な正義感を振りかざして、他人を攻撃する人が増えているように思う。特に多いのが、「不謹慎だ」とか「不道徳だ」という理由で他人を叩く行為。どうしてそんな厄介な人が増えているのだろうか。

 文筆家・古谷経衡氏は、「不道徳」「不謹慎」と認定した相手を徹底的に攻撃する人々のことを「道徳自警団」と呼ぶ。著書『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』(イースト・プレス)は、そんな「道徳自警団」の生態を詳らかにした一冊。「道徳自警団」は、いつから勢力を増してきたのか。彼らはなぜ他人を叩こうとするのか。

「道徳自警団」が力を持ち出したのは2005年から

 古谷氏曰く、「道徳自警団」が目に見えて力を持ち出したのは2005年のことだという。たとえば、この年の2月に放送された日本テレビの番組『カミングアウト』では、タレントのY氏が「集団窃盗で店をつぶした」と告白し、大炎上となった。番組はこの放送を最後に打ち切りとなり、Y氏は芸能活動を無期限停止に。「道徳自警団」による抗議がひとつの番組を終わらせ、一人のタレントを活動停止に追い込む大騒動にまで発展したのは、この時が初めてだったという。それ以降、テレビ局は「道徳自警団」の声に敏感になったようだ。

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「道徳自警団」は「魔女狩り」と同じ

 古谷氏によれば、経済が停滞する社会では、人間の関心は「不道徳」や「不謹慎」に向かいやすい。たとえば、中世ヨーロッパでは、経済成長はほとんどゼロだったが、この時代に行われていたのが、「魔女狩り」だ。「魔女狩り」される女性は「男性を誘惑した」などの些細な理由で周囲から魔女だと断定され、疾病の流行や不作にかこつけて処刑された。疾病や不作を「神の罰」として、現世の人間の行いの不道徳に原因を求めたのだ。一方で、現在の日本は、経済停滞が続き、ゼロ成長が続いている。社会全体に金銭的余裕がなくなってきているからこそ、人の関心は「不道徳」や「不謹慎」を許さない方向に向かっているのだろう。

なぜ「不倫」報道ばかりに熱狂するのか

「道徳自警団」の攻撃対象は、「不倫」「淫行」「微罪」「(わずかな)不正」がほとんど。彼らは、難しい社会問題や政治の話題でも道徳的か否かという単純で矮小な判断しかできない。巨大な悪や犯罪は事実関係が複雑に入り組んでいて、全体像がつかみづらく、理解しにくい。だが、「不倫」報道をはじめとする不道徳な行為は構造がシンプルで、糾弾にはうってつけなのだと古谷氏はいう。中世ヨーロッパではしばしば王権と教会が対立し、理不尽な搾取や戦争が跋扈していたが、民衆たちはそういった巨悪より、「村落の男性をたぶらかした」という不道徳の行いをした女性を火あぶりする方を好んだ。誰もが わかりやすく直感的に石を投げつけられるのが、不謹慎や不道徳なのだ。

「不謹慎だ」「不道徳だ」と他の人の足を引っ張ることでストレスを発散するよりも、もっと有意義なことに時間を費やすべきだ。古谷氏は、「道徳自警団」は経済成長によって自然消滅すると主張する。はやくそんな日が来れば良いのだが…。明るい未来が訪れることを願ってやまない。

文=アサトーミナミ