脱ギャンブル依存も!? ネズミを知れば人間の生き方が変わる…研究者のメッセージ

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/20

『ネズミのおしえ ネズミを学ぶと人間がわかる!』(篠原かをり/徳間書店)

 お祭りの屋台でハムスターを引き当て、それから数年ほど何匹か飼っていたのだけれど、どんなに長くても2年で訪れる別れに耐えられなくなって、飼うのをやめてしまった。それでも、SNSにハムスターの写真や動画が上がっていると、つい見てはニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべてしまう。そんなハムスターのみならず、ドブネズミやハツカネズミ、スナネズミにコビトハツカネズミなど累計40匹以上を飼育し、ネズミに魅せられ研究している専門家が著した本が、『ネズミのおしえ ネズミを学ぶと人間がわかる!』(篠原かをり/徳間書店)である。始めから終わりまでネズミ尽くしの本書は、著者の研究の集大成ではなく、あくまでごく一部。それでも、その内容の濃さに圧倒される一冊だ。

 テレビ番組の『世界ふしぎ発見!』で、異色のミステリーハンターとして動物オタクぶりを披露している著者の現在の研究テーマは、「妊娠期マウスが摂食するタンパク質の量や質の違いが次世代に与える影響の検討」というもの。なにやら難しそうだが、頭の良い人は難しいことを平易に説明する能力に長けており、本書のほうはネズミの生態から、人間との共通点を浮かび上がらせて、身近な悩みや心配事を解決するためのヒントを教えてくれる。

ネズミのおかげ

 なにより私たちは、ネズミに感謝しなければならないという。人間と同じ哺乳類であり、寿命が短く世代交代が早いことから、実験動物として圧倒的多数を占め、「医薬品や医療技術の開発、疾患に関する基礎研究」など、私たちの生活に多大な貢献をしてくれているからだ。ただし、それは人間が一方的に利用している傲慢な考え方とも云え、近年では倫理的観点と、大きさの違いが実験の正確性に影響を及ぼすのではという疑問も提起され、世界的に動物実験は数を減らしているという。それでもネズミからは、多くのことを学べるようだ。

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ネズミにだって妬み嫉みの感情がある

 動物にも人間と同じような感情はあるのかという研究は、犬や猫などを対象に各方面で行なわれている。そして本書によれば、拘束されているマウスにストレスをかけると、1匹だけが拘束されているよりも、5匹でストレスを受けているときのほうが、ストレスホルモンの分泌が少なくなるそうだ。そして、1匹のマウスにだけストレスをかけて、残りの4匹を自由に動き回らせていると、ストレスをかけられている1匹のストレスホルモンの分泌が多くなる。つまりネズミは「他者の幸福を見て自分のことを不幸と感じてしまうことがある」ということで、なんだかSNSの他人の投稿を見ては気落ちする自分と重なってツライ。

負け続ける負のループから抜け出すには?

 パチンコや競馬などの勝負に負け続けても、さらにのめり込んでいくのはギャンブル依存症の疑いがあるが、負けた悔しさで奮起して一流のスポーツ選手になった人もいるから、負けるというのは悪いこととは限らない。しかし、多頭飼いされているネズミが「数日間負け続けると、すぐに負けを認める服従ポーズをとることが確認されている」そうだ。人間も同様で、「負けることで自信を失ってしまうケース」はいくらでもある。動物に関する豆知識が豊富な本書によれば、「咬ませ犬」というと「場を盛り上げるための引き立て役」の意味で使われがちだが、本来は闘犬の訓練において、「若い闘犬に相手を咬ませて勝利の味を覚えさせるため」だそうで、著者は「今日はお風呂に入れたから大勝利」でも良いから、「確実な自分だけの勝利を積み重ねて」自信をつけることを勧めている。

ネズミの見る夢

 感情と並んで議論の的となり研究されているのが、動物も夢を見るかどうか。ネズミでの実験では、起きているときにゴール地点に好物が置かれた迷路を走らせて、途中でそれを中断されると、ネズミの脳は「眠っている最中に迷路を走っているときと同じパターンを示し、夢の中で好物にたどり着こうとしているような信号を発していた」という。

 興味深いのは別の研究において、夢を見やすいとされている「浅い眠り」のレム睡眠を妨害すると、ネズミの記憶力テストの結果が目に見えて悪くなったことだ。人間が夢を見る理由の一つとして、記憶の整理と定着のためというのが有力な説となっているのだが、この実験はそれを裏付けるかのようである。一夜漬けで勉強するよりも、覚えたことをいったん忘れるプロセスを経て頭の中で記憶が整理されないと、記憶の定着が行なわれないかもしれないということだ。だから私は、睡眠時間を大切にしようと思う。それは決して寝坊の言い訳でも、原稿の上がりが遅れた言い訳でもない。

文=清水銀嶺