『君は月夜に光り輝く』著者の原点! 死にかけると特殊な力を発動できる少年少女の道行きの果てには――

文芸・カルチャー

公開日:2020/5/31

『さよなら世界の終わり(新潮文庫nex)』(佐野徹夜/新潮社)

 死にかけると未来を見ることができる“僕”こと間中成理。その日も屋上のドアノブで首を吊って、ナンバーズの数字を当てようとしていたら、世界が破壊される未来が見えてしまう。そしてその壮絶な情景の中に、かつての友人・天ヶ瀬の姿を見つける――。

『君は月夜に光り輝く(メディアワークス文庫)』(KADOKAWA)で鮮烈なデビューを飾り、青春小説の旗手として今もっとも注目を浴びる小説家のひとり・佐野徹夜氏。本書『さよなら世界の終わり(新潮文庫nex)』(新潮社)は作家デビューする数年前にしたためた、あとがきによると著者が「人生で一番最初に書いた小説」だ。それを大幅に加筆修正して、新たな小説として生まれ変わらせた。

 主な登場人物は3人。死にかけると未来が見える間中。死にかけると幽霊が見える、手首を切る系女子の青木。死にかけると人を洗脳することができる天ヶ瀬。登校拒否や引きこもりなどの問題を抱える青少年を矯正する施設で出会った彼らは、隕石墜落事故に巻き込まれた影響で、不思議な能力を授かってしまう。

advertisement

 最愛の妹ミキが死んで以来、生きることに投げやりになっていた間中は、その特異な力を手にしてからというもの、ますます死に淫するようになる。自傷癖があり精神科に通院する青木も、家族から虐待を受けて育った天ヶ瀬も、それぞれに生きづらさを抱えている。

 入所者たちに体罰を繰り返していた施設所長を、天ヶ瀬が殺そうとしているのを“見た”間中は、青木と共にそれを阻止。それを機に久々に旧友と再会し、死と暴力と破壊に充ちた彼らの道行きがはじまる。

『君は月夜に光り輝く』をはじめ、続く『この世界にiをこめて』『アオハル・ポイント』と、著者は生と死についての物語を書き続けてきた。加えていじめ、暴力、特殊な能力といった諸要素を、さまざまな形や伝え方でこれら3作品にちりばめてきた。

 そんな著者の原点が、ここに集約されている。つまり、今挙げた要素のすべてが本作には赤裸々なまでに高密度に織り込まれている。

 高密度なだけあって熱量がすさまじい。暴力の苛烈さも、いじめの凄惨さも、天ヶ瀬を突き動かす破壊衝動の激しさも、オブラートに包むことなく提示される。さらに全編にわたって横溢する間中の生への絶望、死への渇望に充ちた心情吐露は著者の真骨頂であり、その切実さには読みながら心が削られそうになる。

 物語が進むにつれて暴力と死はいよいよ加速してゆき、最終章の第四章に至っては生者と死者、此岸と彼岸の境がもはや曖昧となる。死によって結びついた3人の間には奇妙な、三角関係のまだ萌芽のような感情が生まれて、未来を見る目が少しずつ変わりかけてゆく。

 青春期の痛みと苦しみがどこまでも当事者視点で綴られて、当事者視点であるがゆえに、決してきれいにまとまる大団円とはなっていない。しかも、この結末はほんとうに現実なのか。もしかしたら、死にかけながら“僕”が見た未来の可能性のひとつに過ぎないのかもしれないという余白も残している。

 その余白も含めて、どうかこのラストシーンを思いきり、好きなように、自由に感じてほしい。ハッピーエンドと解釈するか、バッドエンドと受けとるかも、お好きなように。おそらく著者もそんな気持ちで本作を書いたはずだと思う。

文=皆川ちか