果たして公正? コロナ禍で見つめなおしたい、私たちが税を払っている「本当の」理由

ビジネス

公開日:2020/6/2

『人はなぜ税を払うのか 超借金政府の命運』(浜矩子/東洋経済新報社)

 最近、税について考える機会が増えた。大きな理由は、新型コロナウイルスに対する政府の対策・支援がたびたび話題になるからだ。話題としてもっとも大きな争点となったのは、個人への現金給付だろう。所得制限を設けて30万円を給付するのか、それとも、10万円を国民全員に行きわたらせるか。本当に苦しい人に配るべきだと思う一方で、普段たくさん税金を払っている人たちが給付をまったく受けられないのもおかしいような気がしてくる。結局は、一律10万円となったが、果たしてベストだったのだろうか…。
 
 こうしたニュースを見る中で、「そもそもなぜ税金を払うのか?」「どんな人を保障するのが正しいのか?」といったことに、(社会人としては遅まきながら)興味を持つようになった。そんな折に手に取ったのが『人はなぜ税を払うのか 超借金政府の命運』(浜矩子/東洋経済新報社)。「まさに今読むべき本だ!」と思い購入した。読み進めていくと、一筋縄ではいかない税の現状が見えてくる。

税が持つ3つの役割

 財務省のパンフレット「もっと知りたい税のこと」によれば、税金の役割として次の3つの項目が挙げられている。

(1)財源調達機能
(2)所得再分配機能
(3)経済安定化機能

 特に重要なのが、(2)所得再分配機能だろう。ざっくりいうと、余裕のある高所得者たちから徴収した税金や社会保険料を、支援が必要な低所得者のものへと転換することだ。市場原理によって生まれる格差を、税による所得再分配機能がある程度コントロールしているといっていい。例えば、所得税は「累進課税」であるから、高所得者ほど高額の税金を納める。反対に、所得などの条件を満たせば、「生活保護」によって税金で生活を賄える。高所得者が、低所得者や失業者などの社会的な弱者を助ける仕組みになっているのだ。

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「小田原市ジャンパー事件」から見えるもの

 税は、こうした社会保障を受けるための“会費”であるというひとつの考え方がある。実際、先に引用した財務省のパンフレットにも、「まさに、税は『社会の会費』であると言えます」と書かれている。日々納税している私たちにとっても、“会費”という捉え方はわかりやすいだろう。社会に参加するためのお金(税)を払い、その分のサービス(社会保障)を受ける――。しかし、著者は税が“会費”だと考えると、本質を見誤るのではないかと懸念する。

 わかりやすい例が、本書で取り上げられている「小田原市ジャンパー事件」だ。これは、2007~2017年の10年間、小田原市の生活保護業務にあたる担当者たちが、過激に不正受給を非難するTシャツやジャンパーなどを着用して勤務していた問題である。Tシャツには英語やローマ字で「保護なめんな」「私たちは正義」「不正受給者はクズ」と書かれていた。不正受給を摘発しようと思うあまり、行き過ぎた対応をとってしまったのだ。著者は、こうした威圧が、受給対象者に対して「自分は受給にふさわしい人間なのか」と委縮させ、社会から切り捨てられるような感覚を与えてしまったのではないかと指摘する。なぜなら、彼らは自分自身が“会費”を払えていないから…。

 税をただ“会費”と捉えると、税をほとんど払っていない生活保護対象者が保障を受る理由をうまく説明できなくなってしまう。

 それでは、いったい税とは何なのか。私たちはなぜそれを払う必要があるのか。著者は、身近な具体例から歴史的な観点、あるいは経済学者の言葉を引き合いに出しながら、本書を通じて税をめぐる壮大な旅に出る。コロナ対策で血税の使い道に注目が集まる中、根本に立ち返って考えてみたい。本書はその道標になるのだ。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7