発達障害に向き合う“るーくんママ”の奮闘記! 医師の解説つきで実践マニュアルにも

出産・子育て

更新日:2020/6/3

『発達障害の子るーくんとお母さんのマンガ子育て日記』(裕木晶子:著、山国英彦:監修/星和書店)

『発達障害の子るーくんとお母さんのマンガ子育て日記』(裕木晶子:著、山国英彦:監修/星和書店)は同じような境遇の親に、ぜひ読んでもらいたい。

 なぜなら本作には、子供が発達障害などを抱えている中、子育てなどで戸惑うだろう親と家族が、工夫し、楽しく生活する方法と考え方が書いてあるからだ。

 小学生・るーくんとお母さんとが登場するマンガ日記の形で、子供の想像性と社会性の問題に関して、実例を挙げて解説。さらに家族による学習支援、ストレスへの対処法、家族の苦労を描き出している。発達障害を理解したい親の参考になる情報が満載だ。

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 なお本作は発達障害を、最新の表記である神経発達症という言葉に置き換えている。本稿でも以下の文ではこれにならって表記する。

子供が神経発達症? お母さんは奮闘する

 ちょっと不思議な言動を繰り返す裕木家のるーくん。ある日彼は神経発達症と診断される。お母さんは、迷い、工夫し、手探りで我が子に向き合っていく…。

 裕木家の生活を、4コマ仕立てのエッセイマンガと「お母さんのひとこと」というミニコラムにしたのが本作だ。ほのぼのとした絵柄とユーモアにより、可笑しみのある楽しい読み物に仕上げている(実は想像を絶する日々なのだろうが…)。

 本作は以下の5つの章立てになっている。

第1章:こだわり(想像性の問題)
 不思議なことを話す、自分ルールに基づいて行動する、同じものばかり食べたがる、そんなるーくんのこだわりに、お母さんはユーモアと工夫で対応していく。

第2章:社会性・コミュニケーションの問題
 適切な場面であいさつができない、悪気なく余計なことを言ってしまうるーくん。神経発達症の子供が直面する、社会性とコミュニケーションに関する問題について描いている。

第3章:学習支援
 お母さんは、るーくんの気持ちにそったさまざまな工夫で、難しいとされる家庭での学習支援を行う。家庭学習のサポートの実例もまとめている。

第4章:ストレスへの対処法
 こだわりが強く、コミュニケーションが苦手な神経発達症の子供は、ストレスを感じやすい。そんなストレスへの対処法を周りの支援の例から説明する。

第5章:家族
 神経発達症の子供がいる家庭の苦労と、親と兄弟がおおらかに成長していくさまを描いている。

 各章の最後には、監修の山国医師がエピソードごとに解説を加えている。本作はいわゆる笑える子育てマンガであり、そして神経発達症の当事者(子と親)向けの教本なのだ。

るーくんのユニークな行動とは?

 ここで具体的にるーくんのユニークな行動を描いたエピソードを、お母さんの対処法や山国医師の解説などを交えて挙げていく。母が子にどう寄りそっていったのかを参考にしてみてほしい。

好奇心が勝ってしまう(第1章)
 突然ホームから線路をのぞく、ガケのふちへ行く。三輪車で階段を降り、落ちて5針縫う…。知りたい、見たい衝動が強く行動をそのまま起こしてしまうるーくん。元気すぎる子供と、神経発達症の子供との差はわかりにくいのだが、後者は危険を想像できないのだ。これはお母さんが繰り返し注意し続けるしかなく、成長と共に落ち着いていったという。

ボブ(第2章)
 友達を作ったと言うるーくん。お母さんは同じクラスの誰だろう…と思うのだが、実は工作で作ったロボット・ボブだった。お母さんは切なくなるが、実は人形でもコミュニケーションをとろうとすることは悪くない。これは発展する途上の行動なのだそうだ。大事なのは周りもボブの存在を否定せずに認めることだという。

イライラ回避(第3章)
 るーくんは勉強していて思い出せないとイライラすることも。お母さんは、彼の心が安定して学べる態勢になることを優先。ほとんど正解のようなヒントを出したりもする。とにかく机に向かい集中できることを習慣づけていった。とかく親がヒントを与えすぎるのは考える力がつかない、とも言われる。ただ神経発達症の家庭学習については、厳しさよりも安心感を与えていくことのほうが重要なのだ。

君を認めているよ(第4章)
 学校に行くことはるーくんにとって大変なこと。みんなのようにがんばってもできない、僕はダメなんだ、とパニック状態に。学校を休みがちになったこともあった。そこでお母さんはなんでもいいからほめまくった。本人がしていることを認め、楽しい空気を作ろうとした。

 できていないのにほめていいのか、と親は心配しがちだが、毎日の生活の中で普通にやれていることをほめ、ほめられる何かを探すことは重要なのだ。親もまた、それを実践できた自身をほめるようにするべきだ、と山国医師は言う。自身をほめると子供の良い点がさらに見えてくるのだとか。

家族はどうすべきか、がわかる本

 神経発達症の子供本人は、当たり前だが大変である。当然ながら戸惑っている。それは家族も同様だ。子供の生きづらさを目の当たりにし、“今”に疲弊し“未来”への不安を抱く。

 るーくんのお母さんの場合はお兄ちゃんにかまっていないことを気にし、学校の教師や主治医の先生などにも気をつかっている…。

 それでもあきらめず、工夫し、ユーモアをもってのりきった。結果2020年5月現在、るーくんは生活も学習も心も落ち着いた高校生になっている。

『発達障害の子るーくんとお母さんのマンガ子育て日記』は家族が神経発達症の子供に対処する実践マニュアルとして使える。だが本当はこのお母さんの前向きな姿勢がすごくためになるのではないだろうか。

 しかもお母さんは第5章で本音や、自分の機嫌のとり方も描いている。「めんどくさい」ということを子供以外の人に口に出して伝え、心を少しでも軽くする。大切な人たちと美味しいものを食べて癒される。山国医師も「支援する側が疲れ切ってしまうと支援どころではなくなる」「乗り切るためには、何でもよいのですが、支えがいる」と明言している。

 もちろん本作の内容が全ての家庭にあてはめられるわけではない。ただ、るーくんのお母さんが言うように神経発達症の子供の安定した成長には、家族みんなが明るくいることが重要なのだ。

文=古林恭