「おじさん」よ、いなくなれ! 男社会の闇を味わった女性がこの国の“地獄”を変える!?

文芸・カルチャー

更新日:2020/6/7

『持続可能な魂の利用』(松田青子/中央公論新社)

「おじさん」は、その存在自体がすでに罪悪だと思う。何も私は歳を重ねた男性すべてを「おじさん」と呼びたいのではない。胸元、スカートの裾、太ももにはりつくねっとりとした視線。人の外見をいじって軽口を叩くことを悪いと思わない無神経さをもつ男性が「おじさん」であり、そんな男性を疎ましく思うのだ。こちらが嫌がる様子に気づきもしない鈍感さには呆れる。そんな存在が、厚顔無恥にもこの世界を闊歩し、この世界のルールを形作っているのだと思うとゲンナリ。「そんな大げさな」「自意識過剰だな」と嘲笑う人も多いだろうが、そんな「おじさん」の存在に怯え、彼らの顔色をうかがわざるを得なかった経験をもつ女性はきっと少なくない。

 松田青子氏による『持続可能な魂の利用』(中央公論新社)は、「おじさん」に抑圧され続けてきた女性たちのレジスタンス小説。どうして日本という国はこんなにも「おじさん」中心にできているのだろう。女性たちはどうしてこんなにも生きづらさを強いられているのだろう。この小説を読むと、現代社会の問題点が浮き彫りになっていく。そして、その社会を変えようとあらがう女性たちの姿に勇気づけられるのだ。

 主人公は、男性社員の策略にはまり、会社に追い詰められて派遣社員をやめることになった30代の敬子。無職になった彼女は、妹が住むカナダへ遊びに行き、その帰国後、日本の女の子たちの姿に愕然とする。日本の中で暮らしている時には何とも思わなかったが、日本の女の子たちは、「最弱の生き物」だと気づかされたのだ。しかし、そんな危機感を覚えつつも、敬子は、女性アイドル××が所属するアイドルグループにハマり込んでいく。

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 敬子が女性アイドル××に惹きつけられていく姿は、アイドルオタクならば、誰もが共感するだろう。そして、××が誰をモデルとしているのか、すぐに気がつくに違いない。敬子が××が所属するアイドルグループに興味をもったのは、彼女たちが笑顔を見せなかったから。にらみつけるような目をした××だけでなく、そのアイドルグループはみな笑わず、アイドルではないようなダンスを踊っていた。今までのアイドルのように、男性にとって従順であることや、かわいくあることを強制された存在ではないように見えたのだ。

「推し」ができたことに高揚感を覚えつつも、敬子は同時に複雑な思いも抱える。男性社員のせいで、会社をやめさせられ、男社会の闇を味わったのにもかかわらず、男が演出するアイドルを好きになった自分に困惑したのだ。しかし、××に魅了されていく中で、敬子は、世界を呼吸のしやすい場所にしなければならないと決意を固めていく。そして、この国の“地獄”を変える大きな賭けに挑むことになる。

 この本は、「おじさん」中心の世界で、どうにかサバイブしようともがき続けるすべての女性たちに読んでほしい。もしかしたら、男性が読むと、心苦しくなる本かもしれない。女性たちは、面倒だと思われたくなくて、愛想を振りまき続けていただけで、本当は心の中では怒っていたのかもしれない。女性アイドルに恋する三十女の熱情が、日本の絶望を粉砕していくさまは圧巻。こんな革命が本当に起きたらどんなに良いことか。小さな叫びできっとこの世界は変えられるのだ。「おじさん」たちの存在にめげず、女性としてたくましく生きていかねばと思わされた1冊。

文=アサトーミナミ