こんなお隣さんほしいッ! 最高に癒される、窓越しに繋がる「引きこもり男」×「やさしい男の子」の物語

マンガ

公開日:2020/6/13

『おとなりのおと』(天野のすけ/KADOKAWA)

 毎日を忙しなく生きていると、ふいに自分に自信がなくなったり、他人が怖くなったりすることがある。そして自棄になって生活が乱れ、余計に自己嫌悪する。程度や期間の差はあれど、たぶん多くの人が経験したことがあるのではないかと思う。

『おとなりのおと』(天野のすけ/KADOKAWA)の主人公・椎窓つづりは、まさにそういった状態の究極ともいえる状況に陥っていた。ブラック企業に務めていたことで心身ともにボロボロになり、会社を辞め、引きこもりとなってしまったのだ。食料を買うためにコンビニに行くことすらままならない椎窓は、もう1ヶ月も誰とも会わない生活を送っている。

 しかしそんなある日、空き家だと思っていた隣の家から電話の音が聞こえてきた。不思議に思ってこっそりとカーテンの隅から覗いてみると、どうやら誰かが引っ越してきた様子で、そこには小さな男の子の姿が。

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 ここから、椎窓とその男の子「おとくん」の窓越しのひそかな交流がスタートする。

 この日椎窓は洗濯物を干していたのだが、途中から雨が降ってきた。しかしカーテンを閉めて引きこもっている椎窓は雨に気づかない。それに気づいたおとくんは、椎窓にどうにか雨が降ってきたと気付かせようと、窓から窓めがけてアヒルのおもちゃを投げつける。そして音に気付いた椎窓に身振り手振りを使って必死で伝えてくるのだ。

 その、とにかく伝えなきゃと全力な姿はとても健気で、心を閉ざしていた椎窓にも少なからず届いたのだろう。このあと窓越しにアヒルを投げて返した際、彼は非常にぎこちない様子ではあったが、笑顔でおとくんに手をふる。

 おとくんは椎窓のぎこちなさを気にすることなく笑顔を返し、この日以降毎日のように椎窓を気にかけ、表情豊かに無邪気に何かを伝えてくるようになった。なんだこの天使!

 そんな純粋で真っ直ぐなおとくんと接するうちに、椎窓も少しずつ心が溶かされ、自然な表情を取り戻していく。お互いに意図していないからこそ、その様子は自然でゆっくりで、あたたかい。そしてこの何気ない窓越しのやり取りは、ないとそわそわしてしまうくらいに2人の日課になっていくのだ。

 後半では、椎窓が少しずつ外出するようになり、外で2人が実際に出会う場面も。この時の親しすぎない絶妙な距離感もまたリアルで、椎窓がおとくんを大切にしている様子がひしひしと伝わってくる。大人同士ではなかなか築くことのできないこの静かな関係性に、素直に「いいなあ」と思ってしまった。

 この『おとなりのおと』は6月10日に単行本として発売されることも決定しており、単行本には椎窓がまだ働いていたころの“あったかもしれない”2人の出会いが描かれた描きおろし漫画も収録されている。

 今毎日に疲れを感じている人、心の余裕がなくなってるなと感じている人にこそ、おとくんの癒し効果を味わってほしい。人は目の前にいる相手に対しつい完璧な対応や言葉を探してしまうが、本当に必要なのは、おとくんのように飾らずただ相手を受け入れるということなのかもしれない。

文=水音(月乃雫)