ライバルは潰す。『女帝 小池百合子』100人以上の関係者の証言によるノンフィクションに戦慄する…!

社会

更新日:2021/11/23

『女帝 小池百合子』(石井妙子/文藝春秋)

 読み始めは「これは面白い!」とページをめくる手が止まらなかった。しかし次々と暴かれる内幕やこれまでの所業を知ると、そのあまりに大胆な手口と、過去を封じ嘘に嘘を重ねて肥大化していく姿に戦慄して手が止まり、背筋に冷たいものが走る。読後に本を閉じると、表紙で口元に笑みを浮かべる表情に恐怖を感じるほどであった。ある人物の半生を描いた評伝としては出色の出来だが、本書の主人公の人生の続きは今、そしてこれから先の未来へ繋がっており、その行方によっては多くの人々を巻き込むことになる。軽々に「面白い」とは言えない――その主人公の名は小池百合子、現東京都知事だ。

『女帝 小池百合子』(文藝春秋)は厳然たるノンフィクションであり、登場する人物・団体・名称等は本物(一部仮名や匿名)で、実際の出来事と関係することしか載っていない。誰もが知る政治家や有名人が次々と登場し、あの事件や重大な出来事、意外な人物も小池氏と関係があったのかと驚かされる。

 3年半の歳月をかけ本書を執筆した著者の石井妙子は、小池氏の出身地である兵庫県芦屋市から留学したエジプトまで足を運び、100人以上の関係者に取材、加えて数多くの書籍や記事、発言にあたったという。そして綿密な調査から浮かび上がった事実を編み合わせ、絡みつくような湿度の高い文章で執拗に迫り、小池氏が語ってきた物語の嘘を一枚一枚丁寧に剥がしていく。中でもカイロ留学時代に小池氏のルームメイトであった早川玲子(仮名)の話は「政治家小池百合子」を形作る上での重要な証言である。

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 本書を読むと、小池氏の身の処し方はある意味で一貫している。組織の上の人間と繋がっていることをアピールして優位に立ち、下位の者を従わせる。キャッチーなフレーズを提示し、パフォーマンス先行で実務は後回し、学ぶことはせずに見せること、目立つことにしか関心がない。一度口にしたこと、約束した事実を「なかったこと」にして、そのときどきで攻撃する敵を変え、権力者に近づき、引き上げてもらうが、得るものがないと感じたら関係をあっさり絶ち、敵と手を結び、援助者にダメージを与える。紅一点を好み、ライバルは潰す。痛いところを突かれたら得意の横文字で話をはぐらかす、というものだ。機を見るに敏、信念も政治信条も人望もないが、自己プロデュースでのし上がっていく……こうした「世間には見えていない小池百合子の深淵」に、石井は次々と光を当てていく。

 現在、小池氏は都知事として新型コロナウイルス対策の陣頭指揮を執っているが、本書にはこれまで様々な問題に真摯に対応していたのかどうか疑問に思われるエピソードがいくつもある。彼女の故郷であり、自身の選挙区も被害を受けた阪神淡路大震災の窮状を切々と訴えた被害者にはマニキュアを塗りながら対応し、挙げ句「塗り終わったから帰ってくれます? 私、選挙区変わったし」とにべもなく突き放す。環境大臣時代の水俣病やアスベストの被害者、そして都知事として対応した築地から豊洲への市場移転で翻弄される人々に対しては、一様に無関心で冷淡な対応をしている。コロナ禍が深刻になった3月以降、CMや広告に自ら出演し、「密です」「STAY HOME週間」「ロードマップ」「東京アラート」と次々に新しい用語を繰り出しているが、見えていない部分や実務に関してはどうなっているのだろうと心配になる。

 また本書は昭和の終わりから平成~令和の政治史として、そして報道やメディアのあり方とそれを受け止める側のスタンスを再考するにも有用な一冊である。小池氏最大の失言「排除いたします」は大手メディアの記者ではなく、地道な活動を続けてきたフリーのジャーナリストからの質問の答えであったことは記憶に留めておきたい。

 出版直後からSNS上で多くの政治関係者や作家、ジャーナリストらが「多くの人に読まれるべき」と発言して話題となっていることについて、小池氏は何を思うのか? 都知事一期目最後となる都議会での一般質問には「ご質問にありました読み物につきましては、わたくし自身は読んでおりません」と答弁していたが、“読み物”という言葉をチョイスする辺り、意識しているようにも見える。果たして真相が明らかになることはあるのだろうか……

文=成田全(ナリタタモツ)