『ハッピー・マニア』『さくらん』……漫画家・安野モヨコの集大成『安野モヨコ ANNORMAL』発売! 展覧会も7月から開催

マンガ

公開日:2020/6/17

安野モヨコ ANNORMAL』(安野モヨコ/小学館)

 2020年、「安野モヨコ展 ANNORMAL」の開催が決定した。新型コロナの影響で会期は7月1日からに延期されたが、展覧会図録『安野モヨコ ANNORMAL』(安野モヨコ/小学館)は既にインターネットで購入できる。本書は原画や単行本未収録作品のほか、安野さんの夫である庵野秀明さん、担当編集者、元アシスタントからの寄稿が含まれた、全305ページの安野モヨコ決定版だ。

 私にとって安野モヨコさんの漫画との出会いは、恋を求めがむしゃらに生きる20代女性を描いた『ハッピー・マニア』である。当時私は小学生で、主人公シゲタの真っすぐで刹那的な生き様を見て「いつか私もこうなるのかな」とハラハラした記憶がある。

“女の子は基本「受け身」という思い込みが、日本の恋愛文化にはあって、その雰囲気を少女漫画も反映しているんですが、安野さんの作品はそんな前提を完全に打ち壊してしまった”

『ハッピー・マニア』担当編集者の吉田朗さんは、『安野モヨコ ANNORMAL』の寄稿文でそう語る。

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 これは安野さんの他の作品にも言えることだ。江戸時代の遊女の悲しみと強さを描いた『さくらん』、週刊誌の女性編集者の姿を通して、仕事することのリアルを伝えた『働きマン』……安野さんの漫画に登場する女性たちは、幸せがやってくるのを待つお姫様ではない。彼女たちは体ごと自分の人生にぶつかる。読みながら、私たち読者は気づかないうちに自分の人生に立ち向かう勇気をもらう。

 そして安野さん自身も、自分の作品に全力で立ち向かっていた。1996年から2004年まで安野さんのアシスタントをしていたナオミ・レモンさんは、連載を何本も抱え多忙をきわめていた当時の安野さんについてこう語る。

“作画作業にかかり始めても、安野さんは気になるところがあればネームに新たに手を入れていきます。消したり描いたりを繰り返して、つねにブラッシュアップを図っていました”

 2008年、安野モヨコさんは突然筆を止めた。彼女に何があったのか。この本を読み、安野さんの自作に向き合う真摯な姿勢と、だからこそ生まれる苦しみを私は初めて知った。成功をおさめたら全てがハッピー、とはいかない。本書の後半に掲載されている、安野さんの自伝的要素の含まれた漫画『よみよま』を読むとそれがよくわかる。

 2002年に安野さんと結婚したアニメ監督・プロデューサーの庵野秀明さんは、本書で安野さんのいろいろな特徴に触れ、「好きです」という言葉を繰り返す。クリエイターとしての辛さを共有しているからこそ結ばれる、夫婦の絆が感じ取れる。

 2019年、『FEEL YOUNG』で『ハッピー・マニア』の約20年後を描いた『後ハッピーマニア』の連載を開始した安野モヨコさん。本書ではその読み切り版も掲載され、最後には安野モヨコさん本人へのロングインタビューまである。様々な角度から安野さんの漫画、そしてご本人の生きてきた道を知ることのできる贅沢な一冊だ。

文=若林理央