生きづらさを抱えるすべての人に。pixivコミックランキング2019エッセイ部門第1位!『ゲイ風俗のもちぎさん』単行本第2弾発売

マンガ

公開日:2020/6/18

『ゲイ風俗のもちぎさん2 セクシュアリティは人生だ。』(もちぎ/KADOKAWA)

 辛い過去があると、それを誰かに話すのには労力がいる。言葉にすることで思い出したくなかったことまで頭をよぎり、癒えたと思い込んでいた傷口が再び開いてしまうこともある。

 それでも、自分の経験を話すこと、発信することで、誰かを救う人は存在している。『ゲイ風俗のもちぎさん。』(KADOKAWA)の著者・もちぎさんがまさにそうだ。

 もちぎさんがツイッターに現れ、瞬く間に有名になったのは2018年10月のことだった。たった1年半前のことだ。

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 機能不全家庭で育ったもちぎさん。高校生時代は売春しながら生活費を稼ぎ、家を出た後は男性が男性に体を売るゲイ風俗やゲイバーに勤務した。そんな中、もちぎさんは恩師や友人たちのやさしさに触れ、自分になにかできることはないか考えるようになり、2019年8月、『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ。』を刊行。第2弾となる本書は2020年4月に発表された。

 もちぎさんは自らや周囲の体験をもとに、社会が課題としてとらえてこなかった盲点をつく。本書で男性にストーキングされるゲイ風俗の同僚から話を聞いたもちぎさんは、こう感じる。

“ゲイはたしかにマイノリティーだ
だがその少数派という特殊性に目を奪われて
人間らしさをポッカリと忘れて接するのは
あってはならないだろう
あたいらは個々であって種族や団体じゃない”

「差別していない」「特別扱いしていない」

 そう思いながらも、私たちは誰かを無意識のうちに自分とは違うと思い込み、傷つけてはいないだろうか。ふとそう思った。

 また、「自分自身がマイノリティーだと思われたくない」という風潮に、いつしか私たちは染まっていることに、もちぎさんは気づかせてくれる。

 中学の頃の友人にカミングアウトしたいが、ひとりでは不安だと言う同僚に頼まれ、もちぎさんもその場に立ち合う。「ゲイでもおれたち友だちだよ」と言われるか、ひどい言葉をぶつけられるか……。結果は後者だった。

“周りはお前がゲイだって知ってたんだろ?
じゃあ
お前と仲が良かった俺までゲイと思われてたかもしれねぇじゃん”

 悪いのは彼ではない、ともちぎさんは思う。性的マイノリティーとされる方々を痛めつけてきた歴史は、現代を生きる人々にも影響を与えている。

 もちぎさんは、彼らにアドバイスしながら、自分自身の過去も振り返る。家を出ると親から離れることができる。ただ、そこから人生を立て直すことは自分しかできない。

“わかりきった暗い未来よりも
どうなるかわからない未来を掴もうと
踏み出したんだ”

 これはすべての人々にとって再現性のある言葉だ。個人の悩みに焦点がおかれた1巻と少し異なり、今回の2巻では社会問題についても描かれている。3巻の刊行が待ち遠しくなった。

文=若林理央