1つ屋根の下に住む、彼らに潜む獣とは……。表紙からは想像がつかないほどダークさが魅力の漫画『4LDK』

マンガ

公開日:2020/6/18

『4LDK』(蛭塚都/KADOKAWA)

 ルームシェアでの生活は良くも悪くも刺激が大きい。自分が知らない世界を知っている人と生活する場合はなおさらだ。その時間と経験を“財産”と呼ぶ人もいるだろう。

 ただ一方で、他者と生活を共にすることに恐怖を感じる人も少なくない。僕も短期間だが、ルームシェア経験者だ。そしてどちらかといえば恐怖を感じてしまった人間である。特にルームメイトの抱える心の闇が垣間見えた瞬間は、ぞっとした。なぜならその心の闇は普段見えていなかっただけで、自分のすぐ傍に存在していたからだ。誰でも心に闇を抱えているもの、そんなことわかっていたはずなのに。

『4LDK』(蛭塚都/KADOKAWA)は、そんな心の闇を抱えながら1つ屋根の下でルームシェアをする人々を描いたダークでヒューマンな漫画だ。

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 物語の舞台は、都内にある一軒家。主人公の浅野寅は夢を追い上京するも、夢は破れ路頭に迷ってしまう。そんな時、ミステリー作家の中島旭に拾われ、娘の弥生、風俗のキャッチを生業とする湯川栄、エリート営業マンの日吉千歳の住む家にルームメイトとして迎えられる。互いの仕事も生きてきた軌跡も異なる5人が暮らすそこは、まさに現代のルームシェアそのものだ。

 本作は、寅と4人のルームシェア生活が始まって2カ月が過ぎたころから幕を開ける。

 他人同士の生活には、多少なりとも会話にぎこちなさが残るものだが、月日が解決したのだろう。寅にぎこちなさは感じない。すっかりルームメイトとして溶け込んでいた。

 しかし寅はまだ、なぜ自分が上京してきたのか、なぜ路頭に迷っていたのかをルームメイトに話していない。そしてなぜか彼らも聞こうとしない。普通なら、どこの誰かわからない人をルームメイトとして迎えるのだから、いきさつくらいは聞きたいと思うはずだ。

 ただ旭も栄も千歳も、あえて聞かないようにしているようにもうかがえる。なぜなのだろう。

 その理由は、5人で食卓を囲みテレビを見ている何気ないひと時に判明する。寅はテレビに映ったある男を見た瞬間、喩えようのない感情に襲われ食卓を離れてしまう。あまりにも様子が変わった寅を心配する旭。そこで寅は、自分がまだ過去のトラウマから吹っ切れていないこと、思い出すと心の獣がうずく自分がいることを明かすのだ。しかし旭はそれ以上聞くことをやめ、寅にこう告げる。

“トラ覚えておけ 誰の中にも獣が潜んでるんだ”

 ―誰の中にもー。僕はこのフレーズを読んだ瞬間、この家に住む全員を表しているように思えて仕方がなかった。もしそれが事実なら、旭、栄、千歳に潜む獣とは何なのか……。弥生のような小さい子にも獣が潜んでいるのか……。

 僕は最初に本書の表紙を見たとき、「ほのぼのした物語なのだろう」と勝手に想像していた。美味しそうなケーキ、可愛いウサギの人形と女の子、笑顔を見せる4人の大人が写っていれば、誰でも僕と同じように感じるはずだ。

 最後まで読み終わったとき、どうかもう一度表紙を見ていただきたい。きっと読み終わる前とは違った感覚を味わうはずだから。

文=トヤカン