「結婚した人は、人生最愛の人ですか?」福山雅治主演で映画化した『マチネの終わりに』のコミカライズ完結!

マンガ

公開日:2020/6/18

『マチネの終わりに』上・下(平野啓一郎:原作、ホリプー:漫画/毎日新聞出版)

「マチネ」は、オーケストラやバレエなどの舞台でよく使われる言葉である。フランス語で「朝」「午前」という意味だ。反対に「夕方」「夜」のことはフランス語で「ソワレ」と呼ぶ。舞台は昼と夜に分かれて行われることが多いので、昼の公演は「マチネ公演」、夜の公演は「ソワレ公演」と銘打たれることが多い。

 累計50万部を超えた小説『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)は、作家・平野啓一郎さんの代表作の一つになった。38歳のクラシックギタリスト蒔野聡史(まきのさとし)と、40歳のジャーナリスト小峰洋子(こみねようこ)の悲しくも美しい恋愛小説だ。小峰のフランス人婚約者リチャードや蒔野のマネージャー三谷早苗(みたにさなえ)も登場し、四角関係が織りなされる。

 2019年11月に映画化。蒔野に福山雅治さん、小峰に石田ゆり子さんがキャスティングされ、再び本作は脚光を浴びた。

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 実はその前に、『マチネの終わりに』は漫画化もされていた。

 2019年10月4日、コミックアプリ「ebookjapan」で順次公開。11月2日に上巻が単行本化。4月25日の下巻の発売により、紙の書籍でも全部読めるようになった。

 作画を担当したのは、去年デビューした新進気鋭の漫画家ホリプーさん。読み始めると、繊細なタッチの絵が『マチネの終わりに』の世界観に非常に合っていることに驚かされる。

 映画『マチネの終わりに』は小説の設定が少し改変されている。例えば作中で小峰がテロに巻き込まれる場面がある。場所は原作ではイラクなのだが、映画ではフランスになっている。漫画は映画よりも小説に近い形で描かれているため、「小説を読むのは苦手だけど、『マチネの終わりに』は読んでみたい」という人も手に取りやすい。

 漫画ならではの迫力が増すのは、上巻後半から下巻前半にかけてだ。愛し合いながらも、本人たちがコントロールできない中で、思わぬ事態に巻き込まれる蒔野と小峰。生まれた誤解は二人の運命を大きく変えていくのだが、漫画では登場人物の表情が丹念に描写され、自然と感情移入できる。

“未来は常に過去を変えているんじゃないかな
変えられるとも言えるし
変わってしまうとも言える”

 蒔野のこのセリフを読んだとき、最初は「過去が未来を変えることはあっても、未来が過去を変えるということがありえるのか」と不思議だった。しかしだんだんとこれは大事な伏線として意味を持ってくる。

 二人が行き着くのはハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、またはどちらにも分類できない結末なのか…。時は過ぎ、二人の環境も変わる。人の感情も、ゆるやかに変わっていく。

 誤解が解けた後、小峰は一人で蒔野のマチネ公演を聴きに行く。演奏が終わったとき、彼女は震えながらこう思う。

“どうして私たち
別々の人生になっちゃったんだろう
たった3回しか会ってないのに”

 マチネの終わりに、何が起こるのだろうか。二人はどうなるのだろうか。

 小説では流麗な文章、映画では美しいメロディ、そして漫画では二人の表情を視覚で感じることによって、私たちもいつしか物語の中に溶けていくような感覚を味わう。

文=若林理央