「どうせ言ってもムダ」…延命治療ばかりで新陳代謝が進まない日本企業の問題とは?

ビジネス

公開日:2020/6/16

『なぜ、それでも会社は変われないのか 危機を突破する最強の「経営チーム」』(柴田昌治/日本経済新聞出版)

 商談後に飛び出すのは「上司と相談します」「調整してお返事します」という決まり文句。改革の名のもとに行われるのは、効率重視のコスト削減のみで、そこにビジョンは一切なし。上司のムチャな命令に、部下は「できるわけない」と思いつつ、「やる姿勢」だけは見せてアリバイを作る……。

 ここに挙げた逸話は、『なぜ、それでも会社は変われないのか 危機を突破する最強の「経営チーム」』(柴田昌治/日本経済新聞出版)に登場したもの。そのいずれも、行き詰まりを感じている日本企業では日常的に見られる光景だろう。

 著者の柴田昌治氏は、日本企業の風土・体質改革を専門に行う企業・スコラ・コンサルタントの代表。1998年に発表した著書『なぜ会社は変われないのか』(日本経済新聞出版)は20万部超のベストセラーになっている。

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 その前著でも柴田氏は、「日本的経営は社員を自立させない」「大企業で働く人は、会社への不満や不信感があっても『どうせ言ってもムダだろう』という諦めを感じている」といった的を射た日本企業への批判を展開していた。しかし、そんな日本企業の体質は、22年前から大きく変わっていない。だからこそ今回の新著のタイトルは『なぜ、それでも会社は~』となっているのだろう。

 そして柴田氏は、今回の新著では、「失われた30年」と呼ばれる平成時代の経済低迷についても言及。その原因は、日本社会が伝統的に引き継いできた「調整文化」にあると書いている。

「低い生産性の伸び」「経営スピードの致命的な遅さ」「スローガンが独り歩きする挑戦」「考える力を持つ人が育たない」……。これらの日本企業の問題は、すべてが「調整文化」に関わりがあるというのが著者の見立てだ。

 本書では、架空の企業のケース・ストーリーも織り交ぜながら、こうした日本企業の問題点について掘り下げていくが、その指摘は本質的なものばかり。「延命治療ばかりがほどこされて、新陳代謝が進んでいない」「社員が自由にものを言えない空気がある」という話は、日本の企業文化のみならず、昨今の日本の社会や政治について考えるうえでも、示唆に富むものだと感じた。

 本書には「なぜ話し合いの場では口が重くなる?「暗黙の前提チェックリスト」というものが紹介されている。そのリストに並んでいた「どうせ言ってもムダ」「ネガティブなことは言うべきではない」「これを言うと、ややこしいことになる」といった暗黙の前提は、日本人が「SNSで自分の意見を自由に言えない」と感じる理由にも関わっているだろう。

 柴田氏は本書で「調整文化」から「挑戦文化へ」というスローガンを提示し、「挑戦文化とは、本当の意味での誠実さ、人間として誠実に生きるとはどういうことか、が試される文化です」と書いている。自分から声を上げなければ、会社のみならず社会も崩れていきそうな今の時代。日本企業の問題だけでなく、今の日本社会の問題を考えるうえでも、本書は有用なものといえるだろう。

文=古澤誠一郎