『アウトレイジ』を彷彿とさせる! 北野武が、成り行きでヤクザになった少年たちを描く青春バイオレンス小説

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/12

『不良』(北野武/集英社)

 愛すべき馬鹿たち。『不良』(集英社)を読んですぐにそんな言葉が頭に浮かんだ。この本に出てくる登場人物たちはみんなとんでもない馬鹿野郎だ。だけれども、どうしてこんなにも愛おしく思えてしまうのだろうか。そして、どうしてこんなにも切ない気持ちにさせられるのだろうか。本作は、日本を代表するコメディアンであり、映画監督でもある、あの北野武が描いた青春バイオレンス小説だ。

 エッセイスト・阿川佐和子さんは本作について「せつなくも愛おしい。プッと吹き出しつつ胸にキュンとくる。なんとアホらしくて美しい世界だろう」と評し、作家・湊かなえさんは「あぁ、正しく生きることに疲れているな」と言う。著名人たちが魅了されるのも納得する。本作には『アウトレイジ』『ソナチネ』『その男、凶暴につき』などの北野作品を彷彿とさせるエッセンスが存分に詰め込まれている。

 舞台は昭和30年代の足立区。主人公の高野茂がキーちゃんこと吉岡菊二に出会ったのは、中学の入学式の時だった。入学式の最中にいきなり喧嘩で相手を圧倒し、中学1年生の番長となったキーちゃんはなぜか茂を気に入り、茂は埼玉出身の悪ガキ鈴木、魚屋の佐々木とともに4人で毎日遊びまわることになった。

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 茂の母親は、茂を良い高校に入れたいから受験校として有名な中学に入学させたというのに、茂は、キーちゃんたちとともに、飲酒、喫煙、喧嘩、カツアゲ、刃物を使った暴力沙汰などの悪事で悪名高い不良集団になっていく。しかし、中学も終わりに差し掛かると、キーちゃんは姿を消す。ヤクザになる決意をしたキーちゃんの代わりに番長と見られるようになった茂は、どうにか高校に入るも、様々な火の粉が降りかかってくる。そして、とある揉め事が原因で、茂は、キーちゃんを頼らざるを得なくなり、ヤクザの世界へ入り込むことになってしまった――。

 人は中学生からはもう成長できないものなのだろうか。茂は、不良からチンピラ、そして、ヤクザへと段階的にワルになっていくが、根はいつまでたっても変わらない。とにかく馬鹿なのだ。滅茶苦茶な行動ばかりとるキーちゃんに呆れつつも、一方で、確かな憧れを抱き、縁を切ることもできずに、どんどん深みにハマっていく。茂が馬鹿ならば、その親分・キーちゃんも同様だ。いつでもどこでもとにかく喧嘩腰。息を吐くように、暴力事件を起こしていく。だが、その無鉄砲さに否応なく、惹きつけられてしまうのはどうしてなのだろうか。どうしようもない奴らなのに、この物語に出てくる不良たちを嫌いになることができないのだ。

 本書の刊行に寄せて北野は言う。

「俺も、どうしようもなく、青春ってやつを無駄使いして、くたばっちまう不良になってたのかも」

 確かにこの本を読んでいると、自分も間違って道を外れて、こんな不良になっていた可能性もあるのではないかと思えてくる。成り行きに成り行きが重なってワルにしかなれなかった少年たちが、悲しくもあり、愛おしくもあるのだ。

 さらに北野は言う。

「結局の所、バカをやったり、おっかないことが起きたり、努力がパーになったりする救いのない生き方、死に様ってのを描くのは俺の避けがたい生理なんじゃないのかな。ちょっとマジメに言っちゃうと、いまとんでもなく生き死にの問題が差し迫った世の中でしょ? そんな時にこの物語に付き合ってくれて、なんか考えるキッカケになってくれりゃ嬉しいね。」

 荒々しく、生々しく生きる少年たちの生き様をあなたもぜひこの本で味わってみてほしい。時に笑って、時にどうしようもなく切なくさせられるはずだ。

文=アサトーミナミ