“あの頃”に戻りたいすべての大人たちへ。青い空とダイナミックな虫のイラストにワクワクが止まらない!

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/25

『すごい虫ずかん くさむらの むこうには』(じゅえき太郎:作、須田研司:監修/KADOKAWA)

 子どもの頃は、早く大人になりたかった。しかし、大人になると子どもに戻りたいと強く願い始めるのはなぜだろう…。仕事も何もかも刺激が薄れて、毎日が変わらないルーティンの連続。いつからか純真な気持ちもなくなり、自分もただただ汚れてしまったなんて、むなしくなる瞬間もある。

 だからこそ、少年時代の心を取り戻してくれるような作品にすがりたくなるときもある。

 そんな人たちにすすめたいのが、ツイッターでも人気の「ゆるふわ昆虫図鑑」を描くじゅえき太郎さん作、須田研司さん監修の絵本『すごい虫ずかん くさむらの むこうには』(KADOKAWA)。涙が出るほどノスタルジックな感覚を取り戻させてくれる1冊となっている。

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知らなかった虫たちの生態に思わず感心

 本作は、2019年6月に出版された『すごい虫ずかん ぞうきばやしを のぞいたら』(KADOKAWA)の続編にあたる。1日かけて、麦わら帽子をかぶった少年が野山でさまざまな虫に出会っていくさまを、牧歌的なイラストや温かい言葉と共に楽しめる。

 表紙をめくり、さっそく目に飛び込んでくるのは「きょうも いいてんき!」「むしを さがしに いきたくなるね」の一文。「くさむらをたんけんだ!」と畑の通り道を意気揚々と歩く少年をみると、どうしても“あの頃の自分”を投影したくなってしまう。

 少年が最初に出会うのは、アゲハチョウの一種で比較的よくみかけるキアゲハ。鮮やかな羽の模様が目にとまる蝶々だが、リアルでありながらどことなく優しさがにじむイラストもあいまって、まるで自分が虫取り網を持っているかのような気分にひたれる。「たまごから成虫になるまでは、夏で30〜40日くらいです」と、解説も付いているので思わず声に出して感心してしまう。

「オニヤンマだ!」の一言がすべてを物語る

 こだわり溢れるイラストにただようのは、作者のじゅえき太郎さんと監修の須田研司さんによる昆虫たちへの情熱。ライブ標本をもとにした虫たちの姿はどれも、今すぐにでも動き出しそうなほど迫力がある。

 なかでも強くインパクトを与えてくれたのが、トンボ界どころか昆虫界でもおそらく屈指の制空権を持つオニヤンマが飛行するさまを描いた1枚。イラストと共にある「オニヤンマだ!」の一言がすべてを物語っているが、その由来が「しまもようが、おにのトラ柄のパンツににているから」というのは、驚きだった。

 子どもの頃の1日は、あっという間に過ぎる。夢心地の少年は「いまごろ あのむしたちは、なにを しているんだろう」と物思いにふけるが、その一言がまたホロッと目頭を熱くさせてくれる。

 全編を通して、親世代ならば子どもたちとも一緒に楽しめる本書。でも、子どもよりも大人の方が熱くなってしまうかもしれない。そんな、手元に置いておきたくなる1冊である。

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文=カネコシュウヘイ