ねこにすべてを捧げたい!!!! ねこ愛が強すぎる日常コミックエッセイ

マンガ

公開日:2020/6/16

『世界を敵に回してもねこを愛してる』(せかねこ/一迅社)

 新型コロナウイルスの感染予防のために発出された緊急事態宣言での外出自粛中、SNSなどに投稿される猫の姿に癒やされた猫好きな人は多いはず。ペットを飼うというのは最期まで面倒を見る心構えが必要だし、賃貸住宅ではペット不可というところが多く、実際に飼いたくても飼えない事情の人はなおさらだろう。かつて猫を飼っていた私も、現在は諸般の事情により無理な一人。猫を愛しすぎる作者が描く日常コミックエッセイ『世界を敵に回してもねこを愛してる』(せかねこ/一迅社)は、猫の様子が愛おしくて、なにかとギスギスしている昨今、癒やしの一冊になることと思う。

猫のためなら死ねる人は挙手

 両親と弟とで実家暮らしの作者が飼っている猫は、「親方(6歳)」と「坊(2歳)」のオスが2匹。のちに、「お嬢」というメスの子猫が加わる。そんな作者の将来の夢は、自分の家を建てて猫をたくさん飼うことと、「もし私が死んだら ねこと一緒のお墓に入れてほしい」ことだそう。猫を飼ったことのある人なら経験しているだろうが、猫は仰向けで寝ている人の胸に丸まって眠ることがあり、これがけっこう重い。もちろん作者は、「このまま私の息が止まろうとも 君たちが幸せならそれでいい……!」と息苦しさに耐え、「ねこのためなら死ねます」と断言する。

猫好きではない家族をどうするか問題

 作者が初めて猫を飼ったのは、小学3年生のときに野良猫を拾ってきたのがキッカケ。まず母親に許可を求めると「お父さんがいいって言ったらね」と云われ、父親に尋ねたら「お母さんがいいって言ったらな」と云われたので、「つまり どちらもOKということ」と、まことにもって都合の良い解釈をして飼うことに成功した。ちなみに両親は、お互いに相手が「ダメって言うと思った」らしい。そんな作者が、本作の中で3匹目の「お嬢」を飼うために立てた作戦は、「必殺! 金にものを言わせる作戦」で、コツコツとためた貯金から母親と父親のそれぞれに新車を1台ずつプレゼントするというもの。しかし、母親は許可してくれたものの父親は駄目という返事。でも、新車だけは2台買わされた。とはいえそんなことで諦める作者ではなく、最終的には父親の前で大泣きし、父親によると「いい歳した娘のガチ泣きは さすがに引いたので思わず許可した」とのこと。

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猫好きなら絶対やる? ドン引き?

 実は私は猫アレルギーで、猫を飼っている間はクシャミや目の腫れ、喘息などに悩まされていた。それでも猫を抱いて寝ていたのだが、作者も子供の頃から「気のせいだから大丈夫」と乗り切ってきたそう。しかし症状が悪化したため、さすがに病院へ行き検査を受けてみると、もちろん猫アレルギーとの診断結果。そして作者が下した決断は、「ねこを触れずに健康でいるくらいなら ねこを触って苦しんだほうが100億倍幸せだからなァ」というもの。これには、私も禿げ上がるほど激しく同意せざるをえない。ただ作者が、猫の体に顔をつけて「すーはーすーはー」と呼吸をする『ねこ吸い』は私はやらないし、「そろそろ ねこでもすおうかな」と一服するみたいに云って、猫がいつもの場所にいないと知るや、いつも猫が寝ているソファーの猫用マットで、ねこ吸いを始める姿にはドン引きしないでもない。

猫好きでもやってはいけない

 しかし、どんなに猫好きでもやってはいけないことが一つある。それは、野良猫を餌付けすることだ。その猫が居付くことで糞尿の被害に遭う家があるかもしれないし、周辺の生態系を脅かしかねない。もちろん小学生の頃の作者が、そこまで考えられないのは、致し方のないところ。近所の野良猫に、少し高めの缶詰を買ってあげたくなる気持ちは分かるし、口に合わなかったのか、食べてもらえなかったときの哀しみも分かる。そして、捨てるのがもったいなくて、つい食べてしまったのは私も同じ。幸い私はなんともなかったが、作者はお腹を壊してしまったそうだ。しかも、成人してからまた試してみて苦しんだそうな。いくら猫好きでもやってはいけないことが、もう一つあった。キャットフードを食べるのはおすすめしない。

 猫の飼育あるあるとしては毛玉を床などに吐いて汚されることだが、自分の服に吐かれた場合にも作者は、ライブでアーティストが汗を拭いたタオルを客席に投げてファンが悦ぶことにたとえ、「ねこのゲロがついたこの服は ねこ好きにとっては一種のプレミア? みたいな」とさえのたまい、その高みに到達できない私は、なんだか負けた気さえする。あとがきによると、作者は「悲しい話や難しい話はちょっと抜きにして」と述べており、そのため「ねこを異常に愛するへんなやつの話」になってしまったという。つまり、この作品は猫を愛でるのではなく、猫を偏愛している作者を観察する作品なのである。

文=清水銀嶺