人づきあいが苦手、ノリが悪い…そんな自分と向き合うチャンス。友達って本当に必要? とつらくなったら

暮らし

公開日:2020/6/18

『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』(斎藤環、與那覇潤/新潮社)

 コロナ禍による緊急事態宣言で、誰もがひきこもらざるを得なくなった。1人、もしくは最低限の人数での生活を余儀なくされる中、あちこちの家庭でDVが起きたこともニュースになった。暮らす環境が閉じられると、人は心の余裕を失くしてしまうのかもしれない。しかし、「逆にラクだった」という人も、実はいるのではないだろうか。
 
 筆者自身、極力人と会わずに過ごしているうちに、心身の“プチ不調”が軽くなった。そんな自分を顧みて、これまで「つきあいが悪い」「ノリが悪い」と陰キャ扱いされたくなくて、無理して人と会っていたのだと気がついた。
 
 そもそも、人と会わないことや軽妙なトークができないのは、ダメなことなのだろうか。明るく才気あふれる人でなければ、存在価値がないのだろうか。そんな疑問を解決してくれそうだと思い、『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』(斎藤環、與那覇潤/新潮社)を手に取った。

同意ではなく共感が、友情のカギ

 精神科医の斎藤環さんはひきこもりの治療・支援などが専門で、歴史学者の與那覇潤さんは重度のうつを経験している。同書はコミュニケーションや心を病むこと、インフルエンサーたちのオンラインサロンにおける承認欲求などについて、2人の対談形式で話が進んでいく。

 1冊を通してテーマになっているのは「同意ではなく共感の大切さ」だ。気鋭の歴史学者としてメディアに登場してきた與那覇さんは、うつで入院した際に何人ものヤンキーと知り合ったそう。彼らは、「うつになったせいで、(学者の地位など)あれもこれも失ってしまった」と嘆く與那覇さんを、「そんなこと、別にいいじゃん! 一緒に頑張ろうよ!」と無条件で励ましてくれたという。

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 肩書で相手を見ない彼らに癒された與那覇さんは、その経験から斎藤さんとともに「●●だったら仲良くしてあげる」という条件を付けてくる人は、本当の友達ではないという解を導き出していく。そして、大事なのは相手に同意することではなく、価値観などが違っている相手に共感し、存在を承認することだとも語る。

 こう語るのを読んで、「そんなの当たり前だ。自分は『●●だったら仲良くしてあげる』なんて、友達に求めたことはない」と思うかもしれない。しかし、相手を、たとえば「××の仕事をしている」「○○さんの友人の」と、スペックありきで見たことは誰にでもあるのではないだろうか。そして同時に、スペックがないと価値がないという思いを、どこかで持っていないだろうか。

 筆者自身、「真面目で話がおもしろいライター」というスペックがないと、価値がないと勝手に思い込んでいたフシがある。しかし、常に真面目なわけではないし、ライターである前に1人の人間なので、当然気分にもムラがある。そもそもおもしろい話など、いつもあるわけではない。なのに、人と会う際はいつもスペックに沿ったふるまいをせねばと思っていた。そうでないと価値なしと判断されてしまうという、強迫観念にとらわれていたからだ。だが強制的に人と会わなくなったことで、ムリする必要がなくなりラクになれたのだと、2人の言葉を通して気づかされた。

自分以外はすべて他人。違って当然

 スペックありきの関係は、スペックがなくなったら消滅する。しかし「今ここにいるお前が何がなくとも大事!」と思えれば、自分も相手も気難しくても、性格が明るくなくても、“××力”が低くても、関係は続くものなのだろう。そして、

“承認とは、相手を独立した個人として尊重し、肯定すること。”

という斎藤さんの言葉の通り、自分と相手は独立した個人同士という認識を持てれば、どれだけ違っていても相手に失望を抱かずに済むのかもしれない。

 同意で結ばれた関係は、同意を得られなくなると途端にもろくなる。相手に同意しないと、集団から排除されるリスクも生まれる。だからその場をやり過ごすために、「わかる~」と言ってしまった経験は、誰にでもあるだろう。しかし本当に「わかって」いるのか。その同意は本心からのものなのか…。

 自分以外の人間は誰もが他人なのだから、むしろわからなくて当たり前で、必ずしもわかる必要はない。その「わからない存在」を肯定することこそが、相手を認めることなのではないか。

 筆者も「相手をわかる」ことが友情だと思い込んでいたけれど、別にわからなくてもいいし、わかってもらえなくてもいい。でも「わからないけれど、あなたの在り方に共感」できれば、友情を不滅のものにしていける。コロナ禍以前から薄々気づいていたものの、正視することを避けてきた思いが、同書によってようやくハッキリ見えた気がした。

 対談形式の本なので時に話はあちこちに向かうものの、友情に限らず働き方やハラスメントなど、「生きづらさの原因」になっているものとの付き合い方のヒントが、各章にちりばめられている。最近人と会わなくなったことにホッとしながらも、「これでいいのかな」と不安になってしまっていた人には、うってつけの1冊と言えるだろう。

文=霧隠彩子

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