深い津軽三味線の世界×高校生の自分探し×まっすぐな青春ストーリー

更新日:2012/6/15

ましろのおと(1) (講談社コミックス月刊マガジン)

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:羅川真里茂 価格:453円

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女性マンガ家・羅川真里茂(らがわ・まりも)の、初となる少年誌連載作品(講談社『月刊少年マガジン』にて連載中)。ダ・ヴィンチ「次にくるマンガランキング」第6位作品。

安定したクオリティーで多くのファンの支持を得ている作者が、少年誌連載で選んだ題材は「津軽三味線」。主人公の澤村 雪(男・16歳)は青森県生まれ。追い求めているのは、祖父が弾く津軽三味線の音。ある日、師匠でもある祖父が亡くなった。こんなショッキングな場面から、物語は紐解かれます。

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祖父の音がなくなった土地に空虚さを感じた雪は、とにかくこの地を後にしたい思いだけで、あてもなく東京へ。夢を追ったり、絶望とスレスレのところで生きていたりする同年代の若者たちといつしか接点ができ、東京の生活に根をおろしていく。そして雪は、さまざまな人間との出会いや触れ合いから、三味線の音を探りつつ、自分探しを始める。

…といった感じの、自分探しをする高校生の青春ストーリーです。
キャラクターがとてもしっかりと立っていて、わかりやすく、印象に強く残る作品です。まっすぐでマジメ、飾り気のない主人公は、正直に東北弁を話し、津軽三味線がいつも頭から離れない。まわりの多様な人間が、そんな雪の緊張を緩和する。絶妙の人間関係が、物語に心地よい抑揚をつけます。

そして、題材が新鮮。
三味線の中でも、雪が追う津軽三味線は、撥(ばち)を叩くように弾く、さながら打楽器的な演奏方法で、楽曲には音数が多くテンポが速いものが目立ち、ロックのような魂のほとばしりが感じられるのが特長です。見かけが大人しい雪の内に秘めた情熱が、津軽三味線によって体外に放出されるときの、コントラストが効いたシーンがステキです。

本作を読んで「三味線に興味が湧いた」「自分も三味線をやってみたい」という声はとても多く、読者の価値観を変えたという意味でも、ものすごい影響力です。

価値観というと、教育では、従来型の「今の社会に適応する人材を育てる」教育目的から、「新しい社会を切り開く人材を育てる(グローバルに活躍できる人材を育てる)」方向に舵が切られてから、子どもに新しい価値観を獲得させることが重要視されています。

自分の価値観が変えられる瞬間は、時として恐ろしくもあり、ワクワクと心おどるものでもあります。

あなたは、本作を読んで、どのように価値観を変えられるのでしょうか。


雪にとって大きな存在であった祖父の遺影から、物語が始まる

主人公の雪。もう青森の実家にいる意味がない、と東京へ

夢にまで出る祖父

広がる、東京の人間とのつながり

思わぬ展開で、バンドの前座として、ひとり三味線を弾くことに

祖父から盗みたかった「じょんがら節」を一心不乱に。これ、もうスポ根です。ちなみに、タイトル『ましろのおと』には、「ましろの音」と「ましろノート(のおと)」の2つの意味があるとのこと (C)羅川真里茂/講談社