徳重晃は今日も“診る”スペシャリストとして、患者を救う。医療の新領域「総合診療科」の医師の奮闘とは

マンガ

公開日:2020/8/19

『19番目のカルテ―徳重晃の問診―』(富士屋カツヒト:著、川下剛史:医療原案/コアミックス)

 医療とは、1つの間違いや効率の悪さが患者の死に直結する、シビアな世界である。

 今でこそ医療は、高度な発達を遂げ18の専門分野を生み出し、その結果、効率良く間違いのない診断と高度な治療を行なえる環境を作り上げた。これによって救われた命は、数えきれない。

 ただ、受診する科を最初に決めているのは医療知識を持たない患者側だ。いくらネットで検索しても、実際の病気とは関係ない診療科を受診してしまう可能性は充分にある。そのせいで患者の命に関わる事態まで悪化することも……。

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『19番目のカルテ―徳重晃の問診―』(富士屋カツヒト:著、川下剛史:医療原案/コアミックス)は、そんな現代医療の課題に向き合う1人の医師について描かれた作品だ。

 主人公の滝野は、「なんでも治せる医者」に理想と憧れを抱く整形外科の女医。医師になり3年目を迎える彼女は、医療の現実を目の当たりにし、抱いていた理想を手放し諦めかけていた。そんなある日、彼女の前に1人の医師が現れる。総合診療医の徳重晃だ。彼も本作の主人公の1人。来月設立される19番目の専門分野「総合診療科」の医師である。

 徳重は総合診療科が新設されるまでの1ヶ月間、整形外科医として勤務することになる。滝野は、朝の申し送りで浮いた発言をし、変な質問を投げかける徳重に違和感や不快感を覚えてしまう。今後、徳重に医師としての人生を大きく方向転換させられることも知らずに。

 話のメインとなる舞台は「専門分野を持たない診療科」と呼ばれる“総合診療科”だ。診断領域は多岐にわたり、リアルな現場でも重症軽症問わず様々な症状を抱えた患者が訪れる。

 本作は、その様子をリアルに再現した一話完結ものである。患者と徳重の関わりの描かれ方は、まさにリアルそのもの。正看護師として病棟や外来で勤務経験を持つ僕も、思わず「確かに医師ってこんな感じに細かく聞いたりする……!」と共感してしまった。

 ただ本作は、唯一他の医療漫画と異なる点がある。それは「治す医者」ではなく「診る医者」が主役だということ。総合診療医は、患者を丁寧に診察し、最適な診療科で治療できるように導くのがメインの仕事なのだ。徳重も総合診療医の仕事に関して、作中でこう告げている。

「僕らは患者さんのありのままの話を『聴』いて、その人にとって『最適』を見つけるプロになるんだ」

「総合診療医は“患者”を診るスペシャリスト……そう思っているよ」

 そんな徳重の姿に、滝野は心動かされる。「何でも“診られる”医師は存在する」ことに気づいたからだ。そして、手放し諦めかけた理想に再び挑戦しようとある決意をする。彼女がどんな決意をしたのかは、本書を手にして知っていただきたい。

 ちなみに1巻では、徳重の過去には一切触れられておらず謎のままだ。あくまで僕個人の感想だが、徳重は何かとてつもなく辛い過去を背負っているように感じる。作中の彼が時折見せる冷たく寂しげな目は、何を意味しているのだろうか。引き続き注目していきたい。

 同じ医療漫画でも、「治す」のではなく「診る」に焦点を当てた漫画はおそらく他にないだろう。普段医師がどのように診断を下しているのかについて、具体的な過程が見れられるのも面白い。新感覚の医療漫画を求めている人におすすめの作品だ。

文=トヤカン