ついに完結! 八雲を待ち受けるのは、破滅か、救済か? 大人気ミステリー「心霊探偵八雲」シリーズ最終巻

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/4

『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(神永学/KADOKAWA)

 累計700万部突破の人気シリーズ、「心霊探偵八雲」の最新刊にして完結編、『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(神永学/KADOKAWA)が6月25日発売された。

「心霊探偵八雲」は、死者の魂が見える青年・斉藤八雲が、霊にまつわる難事件を解決してゆくスピリチュアル・ミステリー。「怪盗探偵山猫」シリーズ、「天命探偵」シリーズなど多くのヒット作を手がける小説家・神永学さんがデビュー以来16年にわたって書き継いできた代表作である。

 その歴史にピリオドを打つ最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』とはどんな内容なのか。シリーズのこれまでを簡単にふり返りながら、(もちろんネタバレは避けつつ)紹介してみよう。

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 主人公・八雲は生まれつき赤い左眼と、人には見えないものが見えるという特異体質のために、孤独な人生を歩んできた大学生だ。ある日、過酷な生い立ちもあって、人を信じることができなかった彼の前に、小沢晴香という女性が現れる。赤い瞳を「綺麗」だと言った晴香との出会いによって、八雲の生活は少しずつ変化してゆくのだ。

 人体発火現象、神隠しなどのミステリアスな事件を縦軸とするなら、八雲と晴香のラブストーリーを中心にした人間ドラマがシリーズの横軸。熱血刑事(その後は私立探偵)の後藤や、臆病だがなぜか憎めない若手刑事の石井、新聞記者の真琴など、多彩なキャラクターが織りなす群像劇が、大きな読みどころだった。

 八雲の過去、とりわけ彼の人生に影を落としてきた父・雲海との関係にスポットを当てながら加速を続けてきた物語は、シリーズ前作『心霊探偵八雲11 魂の代償』において、ひとつの衝撃的な展開を迎える。これまで八雲たちを苦しめてきた逃亡中の殺人犯・七瀬美雪によって、晴香が拉致されてしまうのだ。大切な存在を奪われ、いつもの冷静さを失う八雲。タイムリミットが刻一刻と迫るなか、彼は絶望的なゲームに身を投じる。

『心霊探偵八雲12 魂の深淵』は、ショッキングな11巻の最終ページを受ける形で幕を開ける。美雪によって付けられた傷痕が癒える間もなく、八雲の周囲ではまた新たな心霊事件が巻き起こっていた。愛菜という7歳の少女が霊に取り憑かれたと知り、彼女の家を訪ねる後藤。一方、真琴は旧知のカメラマンから、心霊写真を撮ってしまったと相談を受けていた。どちらも八雲の特殊能力が必要な事件。そんな中、八雲は後藤たちの前から、姿を消してしまう…。

 本作のタイトル『魂の深淵』は、作中でも引用されているニーチェの言葉「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている」に由来している。これまで数々の危機を乗り越え、成長してきた八雲。しかし彼が本当に変わるためには、自らの魂の深みへと降りてゆかなければならない。それは一歩間違えば精神の破滅につながる、あまりにも危険な道だ。八雲を待つのは破滅か、救済か? シリーズ史上、もっとも過酷な運命に翻弄される八雲の姿から、ひとときも目が離せない。

 そんな八雲を遠くから支える、おなじみのキャラクターたち。本書では八雲と後藤たちはほとんど別行動を取っているが、11巻にわたって培われてきた信頼関係に揺るぎはない。それぞれのキャラクターが全力疾走する姿を同時進行で描きながら、大迫力のクライマックスへとつなげてゆくストーリーテリングは圧巻。まさに完結編にふさわしい。

 緊迫感にあふれる冒頭から、胸を打つラストシーンまで、とにかく「これぞ『心霊探偵八雲』」と言いたくなる展開の連続である。シリーズのこれまでを見守ってきた読者なら、本書における八雲の姿に、そして16年にわたるシリーズに見事な結末を用意した作者・神永学さんに、スタンディングオベーションをおくりたくなるはずだ。

 なお、「心霊探偵八雲」シリーズの魅力を詰めこんだファンブック『心霊探偵八雲 COMPLETE FILES』も同時発売された。神永さんのロングインタビューや、京極夏彦さん、藤巻亮太さんとの対談、八雲たちのその後を描いたショートストーリー5編など、盛りだくさんの1冊である。ぜひこちらもチェックしてほしい。

文=朝宮運河