はやり病に給付金騒動、バカ殿伝説、ミイラを食用に…知られざる江戸時代の“禁断”事件簿
公開日:2020/7/4
近年研究が進んだことで、江戸時代に関する「常識」が大きく変わってきている。たとえば、長いあいだ江戸時代といえば「士農工商」という厳しい身分制度があったとされてきたが、現在では武士とそれ以外の身分があっただけで、その武士の身分も金を出せば買えたということがわかっている。ただ、一度定着したイメージはなかなか変わらないため、江戸時代についての古い常識を信じ込んでいる人も少なくない。
そこで、いままでの江戸時代のイメージが覆るような、おもしろいエピソードを数多く紹介しているのが『禁断の江戸史〜教科書に載らない江戸の事件簿〜』(河合敦/扶桑社)だ。多摩大学客員教授や早稲田大学非常勤講師を務める著者は、『早わかり日本史』や『晩節の研究 偉人・賢人の「その後」』など、多数の日本史関連の著作を出してきた歴史研究家である。テレビ出演や講演などの仕事も多い。
どれも目が離せない、新しい江戸の実像は…
本書に載っている、興味深いエピソードをいくつか紹介すると――。
時代劇などでは大名行列に農民が這いつくばっているシーンなどもよく出てくるため、大名は農民にとって絶対に逆らえない存在だったように思われがちだ。しかし、浜松藩藩主だった井上正甫という大名があるとき魔が差して、ひとりの農婦を強姦しようとしたところ、ちょうど帰ってきた夫に見つかり、殴りかかられるという事件が起きた。その後、正甫の家臣たちは主君の醜聞をもみ消そうと農民夫婦に多額の賠償金と屋敷まで与えたが、噂はいつしか広まり、正甫が江戸城に登城すると他家の足軽などから「密夫大名!」、「強淫大名!」などと嘲られるようになってしまったという。さすがに幕府もこれを見過ごすわけにはいかず、正甫は奥州に左遷されてしまった――なんだかほとんどバカ殿の世界である。
また、江戸時代は鎖国をしていたというイメージがあるが、江戸や大坂といった大都市には堂々と輸入雑貨屋が店を構えており、外国の品物が広く売買されていた。とくにオランダ経由で長崎に入ってきたエジプト産のミイラは人気商品で、金持ちたちはこぞってミイラを買い求めると万病の薬、栄養食として食していたという。エジプトのミイラは防腐剤としてミツバチの巣からわずかだけ採れるプロポリスを使用しており、プロポリスは現代でも高級健康食品である。それゆえ、ミイラを食べることは実際に体に良かった可能性も高いが、ミイラはそもそも人間の遺体なので、それを喜んで食べていたというのはよくよく考えると恐ろしい。
そのほか、昨今のコロナ禍では政府が支給する給付金や休業補償が注目を集めているが、江戸後期の享和2(1802)年に「お七風邪」という病がはやると、幕府は風邪をひいた独身の者には1人300文、2人暮らし以上の者には1人あたり250文の補助金を与えたという。これなど、まるで現代のニュースを読んでいるかのようである。
…このように、江戸時代に関する意外な話が数多く掲載されている本書だが、個人的に一番驚いたのは、現代の高校生の多くが「遠山の金さん」を知らないという事実だ。たしかに、最近ではあまりテレビで時代劇を放送していないので仕方のないことなのかもしれないが、それにしてもビックリである。その遠山の金さんこと、北町奉行・遠山金四郎景元が体に入れていた刺青(いれずみ)は、じつは桜吹雪ではなく、女の生首の絵だったかもしれない――そんな「新常識」も本書では興味深く紹介されている。
文=奈落一騎/バーネット
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この記事で紹介した書籍ほか

禁断の江戸史~教科書には載らない江戸の事件簿~ (扶桑社新書)
- 著:
- 河合 敦
- 出版社:
- 扶桑社
- 発売日:
- 2020/03/01
- ISBN:
- 9784594084196
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