濃厚接触でしか生きていけない風俗嬢の悲痛な叫び。新型コロナで行き場をなくした貧困女子の実態

社会

公開日:2020/7/5

『新型コロナと貧困女子』(中村淳彦/宝島社)

 いまだ収束の気配が見えない新型コロナウイルス感染症。すべての国民が「感染症対策」と「経済対策」のどちらを優先させるか悩む中、いま厳しい立場に立たされているのが夜の街で生きる人たちだ。『新型コロナと貧困女子』(中村淳彦/宝島社)は“濃厚接触”を通じてしか生きることができない女性たちの叫びをすくいあげるルポルタージュだ。
 
 水商売は目先の利益が最優先であり、風俗嬢たちは業務委託を受ける独立事業者。日当制であるため、生活が困窮するまでのタイムラグがなく、店側の判断によって明日の生活さえも不透明になってしまう。日本7大都市にあるすべての繁華街が瀕死の状態となっているいま、そこで生きる女性たちはどんな日常を強いられ、絶望と闘っているのだろうか。

国の補償が「頼みの綱」にならない風俗嬢たち

 身体を売って衣食住を確保している風俗嬢たちは、もともとギリギリの生活をしていることが多い。コロナの影響でその生活はより厳しいものになっている。中でも、大打撃を受けているのが熟女の風俗嬢だという。

 近年では、奨学金返済のために現役女子大生が風俗で働くことも増えており、30歳以上の女性は安く買い叩かれてしまう。下層風俗嬢の収入はもともと生活保護水準を下回っていたが、その現状がコロナによってさらに厳しいものになったのだ。

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 企業勤めなどの昼職であれば、生活が苦しくなる前に国の福祉制度に頼ることもできる。しかし、風俗嬢の場合はタイムラグがないだけでなく、雇用や収入の証明が容易にはできないため、補償制度に頼れない。実際、吉原で働くソープ嬢・後藤摩耶さん(31)は、店に収入証明の発行を頼んだものの、店長に軽くあしらわれ、結局、緊急小口資金貸付や生活困窮者住居確保給付金を受けることはできなかったそうだ。

 このままでは生きていけない…そう思い、デリヘルの面接に行ったが、すでにあらゆる風俗嬢が殺到しており稼ぐことが難しかったため、取材時は1日1食にし、店舗の営業が再開されるのを待っている状況だったという。働くこともできず、現状のままでは生きていけないという摩耶さんのような女性は、全国各地の繁華街にたくさんいるはずだ。

 この他にも本書には、池袋駅西口に立つ62歳の街娼の暮らしぶりや、奨学金を返済するためピンサロで働く女子大生の本音も掲載されている。全員に共通することは、身体を売って稼いでも彼女たちの生活は非常に厳しいということ。その事実を痛感させられ、同じ女性としてやるせない気持ちになる。

 今回のコロナ対策の中で、厚生労働省は当初、休業補償から暴力団関係者と共に風俗関係者も対象外としていたが、この決定を「国に見放された」と捉えた人は多かったはずだ。家賃を支払うこともままならない中、補償という最後の頼みの綱にさえも守ってもらえないのならば、女性たちは一体どこにどんな助けを求めたらいいのかと考えさせられる。

 だが一方で、この補償が世論によって風俗関係者も対象にすると一転したことからうかがい知れるように、今までであれば「揺るがない決定」として押し付けられてきたものが、SNSなどで声をあげることによって覆すことができるという変化があったのも最近の動向だ。コロナというこの未曽有の危機を、社会的弱者を見て見ないフリをする社会構造を変えるきっかけにしていけたら…と強く思う。

 新しい生活様式が求められる今こそ、私たちは自分の日常だけでなく、“誰か”の日常を思いやり、変えていく勇気ややさしさを持たなければいけない。風俗嬢たちの切なるSOSが多くの人の目に留まることを祈る。

文=古川諭香

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