「大事な金づる」としてインスタ映えする犬を飼うも、最期の時に…カレー沢薫が描くペットと人間の17個の物語

マンガ

更新日:2021/1/23

『きみにかわれるまえに』(カレー沢薫/日本文芸社)

 私事で恐縮だが、昨年から今年にかけて、実家で暮らしていた愛犬2匹が、相次いで虹の橋を渡った。老犬だったので、寿命だったのだろう。最期まで本当に頑張って生きてくれたとも思う。だが、彼らとの、両手ではとても足りない数の思い出が頭をよぎるたびに、今でも涙があふれてくるし、温かい身体に触れたくもなる。言葉は話せないが、紛れもなく家族の一員で、なくてはならない存在だった。大変なことも多かったが、出会わなければ良かったなんて絶対に思わないし、そばで見守れなくなった今でさえ、2匹の存在に救われていることは多いのだ。

 カレー沢薫先生の新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)は、ペットと人間のさまざまな繋がりが描かれたマンガである。全17話ある物語は、「犬の十戒・猫の十戒」ならぬ、「人間からペットへの勝手な想い」が17戒、それぞれのタイトルになっている。ペットに並々ならぬ愛情を注ぎ、後悔しながらも慈しんできた経験のある人は、涙なしでは読めないマンガばかりに違いない。

 例えば、第2戒「私たちはたまに、きみをクソみたいな理由で飼います」は、“インスタ映え”のためにネット受けが良さそうな可愛い犬・とん太を飼ったおばあさんの話。おばあさんは、とん太に良質なご飯を与え、美容室にも連れて行き、媚びた服を着せた。その結果、とん太は狙い通り、アフィリエイト収入を通して「大事な金づる」となる。だが、ネット上で犬は褒められても、飼い主は嫌われていた。実はおばあさんは、幼い頃から「ブサイク」と責められ続け、仕事でも疎外され、夫からはDVを受けてきた。おまけに、子供には財産を狙われ、早く死ぬことを期待される始末…。「インスタのフォロワーも10万人いるのに誰もアタシを褒めやしない!」と嘆くセリフは胸が痛むのだが、とん太はなんと、23歳まで長生きする。そうしてとん太の最期の時、おばあさんはある意外な人物からようやく褒められることになるのだが…!?

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 また、第4戒「私たちは結局きみより自分を優先してしまいます」は、猫を心の底から愛するがゆえに飼わないことを決めたOLの物語。彼女は子供の頃、貧乏で、毒親に育てられたため、拾った猫を病院に連れていけず、死なせてしまった過去があった。また目の前で猫が死ぬことが耐えられないからと、飼う選択はしないのだが、それでも猫のために何かしたいと、保護猫団体に寄付したり、同僚の猫の里親探しに協力したりと、こっそり暗躍する様子が描かれている。

 本書では他にも、保護施設ではなく、あえてペットショップを経営する店員の心の内や、仕事を辞めて認知症の親の介護をする犬好きの女性の葛藤など、さまざまなドラマが描かれている。彼らは皆、決して甘くはない過酷な人生を歩む中で、偶然にも犬や猫と出会い、可愛さに癒されるだけでなく、他人の意外な優しさに気づかされたり、孤独を回避したり、季節の移り変わりに気づいたりと、いろんな経験を経る。ある物語で、「世界一猫好きのジジイ」が、

「世界一かわいいだけでいいのに 俺をこんなに助けてくれて」

…と、愛猫に語りかけるシーンがあるのだが、これはまさにその通りで、筆者は号泣しながら何度も頷いてしまった。言葉は話せないのに、彼らは驚くほど心を満たしてくれる。ペットが自分より先に旅立ってしまうことが、これほどまでに寂しいとは知らなかったが、勝手にたくさんの愛を注がせてくれたことを、今でもとても感謝している。

 ペットと人間の関係が、シンプルだが胸に染みる絵で、優しく描かれたマンガである。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ