ラグビーは“RPG”だ! ランサー、ガンナー、勇者……さまざまなジョブで試合を制する新感覚ラグビー漫画

マンガ

公開日:2020/7/16

『ノーサイドクエスト』(好本拓朗/芳文社)

 元々運動音痴なため、スポーツは「観戦する」のも苦手だ。ルールが理解できないし、そもそもどう楽しんでいいのかもわからない。だから、スポーツマンガに対しても苦手意識を持っていた。もちろん、面白いスポーツマンガはたくさん存在する。実際にプレーはできなくとも、キャラクターに感情移入することでスポーツの楽しさを追体験させてくれるような作品だ。しかし、それでもやはり、スポーツというジャンルへの苦手意識はなかなか消えない。

 ところが、『ノーサイドクエスト』(好本拓朗/芳文社)は、そんなぼくでも心の底から楽しむことができた。それはなぜか。スポーツを「RPG」にたとえ、試合をひとつの「戦闘」のように描いてくれているからだ。

 本作のテーマになっているのは「ラグビー」。スポーツ苦手人間にとっては、野球やサッカーのようなメジャーなもの以上に縁遠いスポーツである。だから正直、ページをめくるまではあまり期待していなかった。どこまで楽しめるんだろう……と。結果から言うと、それは杞憂だった。

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 主人公は、ラグビーの元全日本選手の男性・不動琢磨。彼は弱小ラグビー部の顧問をしている友人に頼まれ、アドバイスをすることになる。しかし、彼はラグビー部の生徒たちを煽るような発言を繰り返す。

「そんなゴミみたいな練習 今すぐやめたまえ」
「こんなチーム 素人でも勝てる」

 もちろん、それに反発する部員たち。「素人でも勝てるなら、是非見せてもらいたいですよ」と、不動のことを小馬鹿にする。

 そんな部員たちに「現実を見せてやる」と宣戦布告する不動。そして1時間後、宣言通り、彼は校内から「素人たち」を集めてきて、現役ラグビー部と試合をさせるのだ。

 ふつうに考えて、勝てるわけがないだろう。けれど、ここからが本作の面白いところだ。不動が集めてきたのは、サッカー部、柔道部、相撲部、バスケ部、水泳部、バレー部、そして帰宅部。さまざまな理由で孤立している彼らを集め、不動は即席のラグビーチームを結成する。そして彼らは、試合で驚くべき能力を発揮する。

 たとえば、バスケ部。彼の武器はバスケの試合で培ったジャンプ力とリーチ。まるで天を突く槍のような彼を、不動は「ランサー」と称する。脚力を活かし、正確なキックでボールを蹴り飛ばすサッカー部は「ガンナー」、重心を的確に捉え、相手のバランスを崩す柔道部は「アサシン」と、不動は即席で集めた面々をRPGに登場するジョブにたとえていく。いわば彼らは、ラグビー部を倒すために集められたパーティなのだ。

 そんな不動が見出した切り札は、まさかの帰宅部。彼はいじめられっ子故に、抜群の「避け勘」を備えていた。ラグビーにおいて、「避け」に特化した選手は「勇者」のような存在。不動は彼にフィニッシャーとしての役割を与えるのだ。

 もちろん、試合結果は素人たちの勝利。その結果にショックを受け、ラグビー部を去る部員たちもいた。一方で、初めてラグビーを経験した「素人たち」は、なにやら本気でラグビーに興味を持ったようで……。型破りなゲーム脳を持った不動は、こうしてめちゃくちゃになったラグビー部を一から再建していくことになる。

 本作はお世辞抜きで一気読みだった。スポーツをゲームにたとえることで、こんなにも面白くなるなんて……と衝撃を受けたほどだ。これから先、不動率いる「パーティ」がどんな戦闘を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。

 スポーツに苦手意識がある人、あるいはラグビーにあまり興味がない人。そんな人にこそ読んでもらいたい、新感覚のラグビーマンガである。

文=五十嵐 大