予想と違う! ホラー小説の奇才・櫛木理宇が新たな世界を切り開くミステリー傑作集

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/15

『死んでもいい』(櫛木理宇/早川書房)

 加害者と被害者に、運命的な結び付きがある。

 そんなことは現実ではありえないし、被害者や被害者の家族の気持ちを想像すると考えるだけで罪悪感が芽生える。だが、フィクションの短編小説ならどうだろうか。

「あなたは加害者? それとも、被害者?」

advertisement

『死んでもいい』(櫛木理宇/早川書房)に登場する主人公たちに、私は問いかける。それをはっきりさせたい気持ちはおさまらず、私はこの短編集を読んでいる最中、一秒たりとも目を離せなかった。

 物語を紡ぐのは櫛木理宇さん。日本ホラー小説大賞で読者賞を受賞し、映画化もされた『ホーンテッド・キャンパス』の作者と聞けば、はっとした人もいるのではないだろうか。小説家デビューされたのが2012年、『ホーンテッド・キャンパス』の他に『赤と白』という小説で小説すばる新人賞も受賞している。

 受賞歴が華々しいとはいえ、デビューして8年だと、まだ作家としては「新進気鋭」というキャッチフレーズがつけられてもおかしくない時期だ。しかし今回、私が本を取り置きしてもらうために書店に電話すると、書店員は「櫛木理宇」という名前を聞いただけで「新作の『死んでもいい』ですか?」と聞いてきた。既に知名度はベテラン作家に近いと言えるだろう。

 今年(2020年)、著作『死刑にいたる病』の映画化も発表された。櫛木理宇さんはこれから映画化作品の原作者として常連になりそうだ。ただ『ホーンテッド・キャンパス』も『死刑にいたる病』も長編なので、まずは短編から櫛木さんの世界観を知りたいという人がいたら、ぜひ本書を薦めたい。

 表題作は、ある一人の男子中学生が殺され、刑事が事情聴取している場面から始まる。疑われるのは被害者にいじめられていた一人の少年。彼にはアリバイもない。

 しかし、刑事は事情聴取のときの彼の言葉がどうしても引っかかってしまう。

“「こんなことになるなら、僕が先に殺しておけばよかったです」”

 この後のストーリー展開を予想するなら、実は犯人は他にいて、彼は殺人事件の被害者であるいじめっ子を殺したいと思っていた。そう受け取れるだろう。ところが、最後に読者にのみ明かされる真実は、私たちの思い込みを根底から崩していくものだった。

 現在、ミステリーのトリックは、今までの数多くのエンターテインメント作品で使い果たされているという。だが、作者である櫛木理宇さんは、犯人探しとは違う「トリック」を、ミステリー小説の世界に解き放った。

 短編小説の作品集はだいたいが好きなものから読み始められる。ただ、この短編集に限り最初から読み進めてほしい。

 収録されている中で最後にある短編「タイトル未定」の主人公が誰か知ったとき、私たちはフィクションとして楽しんでいた小説が、急に現実に近づいてくるような衝撃を受けるはずだ。

文=若林理央