なれ合い、セクハラが横行…地方議員は必要か? 全国3万2000人のアンケートから見えた実態とは

社会

公開日:2020/7/15

『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(NHKスペシャル取材班/文藝春秋)

 先日、前法相による大規模買収事件をめぐり、続々と広島県議の議員たちが金を受け取ったことを認めて謝罪した。中には反省して坊主頭になる市長もいるなど迷走ぶりに思わず苦笑してしまったが(その昔、号泣謝罪する議員がいて呆気に取られたことも思い出した)、この手のニュースをみるたびに「また地方議員の不祥事か…」と辟易とさせられる。ダーティなものほど全国ニュースになりやすいとはいえ、考えてみたら私たちは地道にがんばっている地方議員の姿というのはあまりチェックしていないのかもしれない。おそらく国会のウォッチはしていても地方議会まではなかなかみていないという人も多いだろう。

 このほど、そんな私たちの態度にズバリ切り込むようなタイトルの新書『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(NHKスペシャル取材班/文藝春秋)が登場した。2019年の統一地方選前の番組のために全国3万2千人あまりの地方議員に実施したアンケートの結果をまとめたものだが、2万人近くが回答したという前代未聞の結果に大きな反響があり、あらためてデータを精査し追加取材を付加したという。全126項もあるアンケートは「議員になりたいと思った年代」「議員になるきっかけ」などベーシックな質問にはじまり、「別の議員からのセクハラ・パワハラがある」「議員の立場は“おいしい”と思うか」「なぜこの人が、という同僚議員がいる」といった際どいものまでさまざま。数字のインパクトもさることながら、自由記述からリアルな現状とホンネが見えてきて実に興味深い。

 たとえば議員の仕事のやりがいを問う質問には、「行政の監視」や「議会・委員会での質問」にそれぞれ89%、95%の議員がやりがいを感じているという結果が出た。一方の自由記述からは「保守系議員が市長のいいなりになっている」(60代・男性市議・東海)、「古参のボスの言いなり議員を、私はなんでも賛成議員、略してN.S.Gと名付けました」(50代・男性市議・北陸信越)など、思った以上に「なれ合い」の姿勢が横行する実態が見えてくる。本来、議会の役割とは「首長をトップとする行政が正しく機能しているかをチェックする」ことだが、なんとNHKの取材によれば全国に1788ある地方議会のうち約9割が2018年の1年間に一度も行政側の提案をストップしたことがないとか。思わず「これって意味あるの?」と唸りそうになる。

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 本書では「なぜ議会は首長や行政のいいなりなのか」「なぜ議論が活性化しないのか」といった疑問の追究に加え、「セクハラが横行する超男社会」「政務活動費など不明瞭なお金の実態」など気になる地方議会のリアルについても取材と考察を重ねていく。見えてくるのはさまざまな地域の事情であり、新しい価値観についていけない「旧来型の議員」の存在であり、さらには待遇格差が大きく「なり手」が不足している実態であり…浮かび上がる地方議員たちのリアルはまるで日本社会の縮図。かなり残念な気持ちになる一方で、それでもがんばって声をあげようとする「真摯な姿勢」の議員も数多くいるのに救われる。

 当たり前のことだが、どんなダメ議員でも選んでいるのは私たち自身だ。だから未来を変えていきたいのなら、まずは有権者である私たち自身が意識を変えなければお話にならないし、そのためにはもっと私たちが彼らに関心を持ったほうがいい。まずは本書が地方議員の抱えるジレンマを白日のもとに「見える化」した意味は大きい。本書をきっかけに地元の議員がどんな奮闘をしているのか、もっと知りたくなってくることだろう。

文=荒井理恵