枕営業って本当にあるの? 芸能界のゴシップネタをテーマにした漫画『ブラック芸能事務所ですが何か?』

マンガ

公開日:2020/7/16

『ブラック芸能事務所ですが何か?』(usi/芳文社)

 限られた才能を持つ人たちだけがスポットライトを浴びることができる世界――芸能界。そこで歌い踊るタレントたちは、いつだってキラキラして見える。けれど、きらびやかな光があれば、すぐ隣に陰があるもの。芸能界には絶えず「ゴシップネタ」がつきまとう。

 タレントのゴシップネタが報じられると、SNSが一斉に沸き立つ。その様子を見ていると、みんな噂話が好きなんだなぁ……と思うが、ぼく自身もそれに踊らされてしまうことがあるから、人は本能的に「裏側を覗きたくなってしまうもの」なのかもしれない。とはいえ、噂はあくまでも噂。話半分に聞いておくのが望ましいし、それが独り歩きすることで当事者が苦しめられてしまう事態は避けなければならない。

 そんな芸能界にまつわるゴシップネタをテーマにした漫画が『ブラック芸能事務所ですが何か?』(usi/芳文社)だ。本作は“ただの人”を“金”に換える役割を持つ、「芸能事務所」を描いた、非常にアングラな作品である。

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 物語の舞台となるのは最底辺の芸能事務所「コロッセオ企画」。そこの一スタッフである神薙(かんなぎ)の目線で、芸能界の裏事情が追いかけられていくのだ。

 たとえば、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「枕営業」について。映画やドラマ、CMのキャスティングに関して大きな影響力を持つ人物とセックスすることによって、優先的に良いポジションを与えてもらう取引のことだ。これはタレント本人が自主的に行うこともあれば、事務所の指示で行うこともある。そしてなかには、タレント本人とは別の人間をあてがう「代理提供」というシステムもある(あくまでも、本作のなかでは)。

 ただし、一度セックスしたからとって、主演に抜擢されるほど甘くはない。せっかく枕営業したのに、蓋を開けてみれば「端役」だった、なんてこともあるのだ。それを「なんのために体を使ったのか」と考えるのか、「ようやくチャンスを掴めた」と捉えるのかは人それぞれ。しかし、後者のような野心家は、小さなチャンスからやがて大きなチャンスへと手をのばす可能性を秘めている。

「女優になる」という夢を抱く新人に対して、神薙は言う。

あなた次第よ
「セックスしないと仕事がもらえない」と考えるか
「セックスすれば仕事がもらえるラッキー」と考えるか

 あまりにも辛辣ではないだろうか。けれど、そこまでしてでも夢を掴み取りたいと思う人は後をたたないのだ。自分の代わりなんていくらでもいる。それならば、どんなことだってしてやる、と。

 この「代理提供」の他にも、コロッセオ企画にはさまざまな仕事がまわってくる。女癖の悪いイケメンタレントを罠にかけたり、「妊娠した」と嘘をついて有名人に近づく女性を懲らしめたり……。いずれも決して後味はよくない。神薙はそんな自分のことをこう称する。

芸能事務所というのは人が商品だ
だからこそほんの一部の上澄みの下には
ドロドロしたものがたまってる…
私はその沼の最底辺にいる

 テレビ画面越しに見る芸能界が華やかな表の顔だとすれば、本作で描かれているのは光の当たらない陰の部分だろう。だからこそ、「覗き見している」という裏側の欲求をくすぐられてしまう。

 ただし、勘違いしてはいけないのが、本作はフィクションだということ。実際の芸能界でこのようなことが行われているかどうかはわからないし、現実と重ねて読むのはナンセンス。あくまでもマンガとして楽しむことを推奨したい。

文=五十嵐 大