1999年に世界が滅びるとしたら――。Windows98、PHS…90年代世紀末が舞台の青春グラフィティ!

マンガ

公開日:2020/7/16

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』(横田卓馬:漫画、伊瀬勝良:原作/KADOKAWA)

 学内テストで万年2位の中学2年男子・神納はじめは、大人気のカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング(M:TG)」が大好き。不動の学年1位の座をキープする優等生にして美少女、沢渡慧美とは小学校時代からの犬猿の仲だ。しかし慧美もまた「M:TG」の凄腕プレイヤーであったことから、2人は接近するように……。

 マンガファンによる推薦と投票で選ばれる読者目線のマンガ賞、〈次にくるマンガ大賞〉本年度のWebマンガ部門にノミネートされたほか、SNSを中心に大反響を呼んでいる本作『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』(KADOKAWA)。世界初のトレーディングカードゲーム「M:TG」をはじめ、『ファイナルファンタジー』、Windows98、PHS、ルーズソックスなど、90年代を彩るサブカルチャーやアイテムが作中の至るところにちりばめられ、あの時代の空気が鮮やかに再現されている。

 本作の時代設定は1998年だ。この年は長野オリンピックが開幕し、映画『タイタニック』が空前の大ヒットを記録し、インドとパキスタンで相次いで核実験が行われた。80年代のバブルの残り香はとうの昔に消え去り、不況はいよいよ恒常化。そんな世紀末の時代、「M:TG」に青春を捧げて生きているはじめは、「M:TG」によって多くの出会いを得る。

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 大嫌いだったはずの慧美と、カードを介してライバルとも友だちともつかない関係を育み、カードショップに集う年長の猛者たちと知り合い、トッププレイヤーが集結する東京大会にも遠征。そこで慧美をもしのぐ実力をもつ同い年のプレイヤー、諏訪原八雲と出会い、八雲の存在が刺激となって、やがて慧美への恋心を自覚する。

 夏休みには共にプールへ行き、秋の遠足では八雲も含めての三角関係へと進展し、運動会で慧美との距離が縮まったかと思いきや、冬の季節に仲たがいをしてしまう(しかしクリスマスで無事に仲直りして、“雨降って地固まる”に)。

 中学男子の恋はもどかしい。近づいたかと思えば離れて、また少しずつ近づいて、一歩一歩前進する。そうしてはじめの世界はだんだんと拡がりを見せていく。第一話では学校の同級生としか「M:TG」をしていなかった彼は、慧美との交流を皮切りに世代や性別を超えた人たちと知り合い、彼自身も成長する。

 物語の中でたびたび言及され、大きな存在感を放っているのが“ノストラダムスの大予言”だ。1999年7の月に空から恐怖の大王がやって来て、人類は滅亡するというものだ。あの時代を生きていた多くの人びとがそうであったように、はじめも慧美も“人類滅亡”までのカウントダウンを、意識するとはなしに意識しながら日々を過ごしている。

 もしも世界が滅びるなら、そのとき自分は誰と一緒にいるのだろう――。

 そんな切なくも切実な問いをはらみつつ、最新刊の5巻から、とうとう1999年編がはじまる。20世紀最後の1年を、はじめと慧美はどのように駆け抜け、何が2人に降りかかるのか。いよいよ大詰めに差しかかってきた物語から、ますます目が離せない。

文=皆川ちか