「香り」で明日の自分が変わる? 1万人以上の臨床実績をもつプロカウンセラーが伝授する心理学×香りの技術

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公開日:2020/7/21

『プロカウンセラーが教える香りで気分を切り替える技術 香りマインドフルネス』(松尾祥子:著、東原和成:監修/翔泳社)

 あ、これいい匂い。そう思った時、自然と心がほぐれていく感覚を味わったことがある方は多いはず。香りは私たちが自覚している以上に、気分や行動に大きな影響を与える。その事実に着目し、香りを活かして心を整え、仕事や人間関係の問題により良く対処していこうと提唱しているのが『プロカウンセラーが教える香りで気分を切り替える技術 香りマインドフルネス』(松尾祥子:著、東原和成:監修/翔泳社)。

 著者の松尾祥子さんは、1万人以上の臨床実績を持つ臨床心理士。20年以上、香りを使ったメンタルコンディショニングを提供し続けている。本書では、一定の見解を得ている脳科学や生物学、心理学の研究成果を示しながら気分を変える技術として、香りの嗅ぎ方指南「香りマインドフルネス」とマインドフルネス瞑想に香りを用いた「香りマインドフルネス瞑想」を紹介。

 なぜ、香りは心に効くのか。その理由と共に、嗅覚を応用することの奥深さを紹介していきたい。

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行動は香りで変えられる! 「香りマインドフルネス」とは

 私たちの脳にある大脳辺縁系は、気分や情動、記憶を司る部位。嗅覚は、そこに働きかける。視覚や聴覚とは違い、嗅覚は意識にのぼらないままダイレクトに気分や記憶に働きかけ、感情(情動)を引き起こし、気分に働きかけて行動をもたらすという。

 例えば、アメリカで行われた実験では、甘い匂いがするクッキーショップの近くで、人は親切な行動をとる傾向があったそう。このように「気分・認知・行動」は相互作用しているからこそ、香りで「気分」を変えられたら、感じ方・捉え方という「認知」が変わり、自然に「行動」も変わってくる。

「匂いを嗅ぐ」というと、自分の外部に意識を向けてくんくんと嗅ぐのが一般的。だが、「香りマインドフルネス」では自分の内側に意識を向けて、匂いを嗅ぐ。その際、重要なのが呼吸と意識の使い方。取り組む時はまず、「香り腹式呼吸」を導入として行う。


 この時は、香りがお腹に入ることをイメージ。香りは自分がいいと感じる香りを使ってみよう。そして、腹部へ意識が向いたら、基本の呼吸法にチャレンジ。


「香り腹式呼吸」を省いても意識を自分の内側に集中させることができるほど慣れて、よい香りで気分の変化や身体の変化が容易に得られるようになってきたら、単にいい気分になるのではなく、自分がいま必要としている気分を感じられるような香りを探し、取り入れていこう。


 香りの見つけ方は第3章でも詳しく解説されているので、こちらも要チェックだ。

仕事の効率も上がる「香りマインドフルネス瞑想」

 もっと心の改善を図りたい…。そう思った時におすすめしたいのが、「香りマインドフルネス」とマインドフルネス瞑想を組み合わせた「香りマインドフルネス瞑想」。


 大雑把に言えば、いま起きていることに集中するのが「マインドフルネス」。現在、第3世代の行動療法としても応用されており、精神的な不調の改善や自己成長など幅広い効果が期待できるとのこと。自分の内側に目を向けるため、注意機能が向上し、周囲に対して繊細な心配りをする能力も上がって、組織全体のパフォーマンスを上げることも可能。こうした効果は「香りマインドフルネス瞑想」でも期待できそうだ。

 また、「香りマインドフルネス」とマインドフルネス瞑想は相乗的に働くため、香りによって気分を切り替える力を高めてもくれるそう。行う時は10分間を目安にし、慣れてきたら時間を徐々に延ばしていこう。

 嗅覚の基礎研究は1990年代頃からようやく本格的になり、嗅覚が遺伝子レベルで多様性を獲得しやすい異性の体臭を見極めたり、体臭や嗅覚の変化が疾患の発見に繋がったりするという驚きの事実も続々と明らかになってきた。そして現在では、嗅覚や匂いをどう活用していくかという応用の段階に入ってきている。そういった視点から見ても、「香りマインドフルネス」は、今後も目が離せない心理的アプローチだといえそうだ。

 本書には、「香りマインドフルネス」と「香りマインドフルネス瞑想」を生活に無理なく効果的に取り入れる7つの実践例や、どうしても気分が切り替わらない時の対処法も掲載されている。ぜひ、香りの力を実感し、自分の「明日」を変えてみてほしい。

文=古川諭香