最愛のパートナーを失って…精神科医Tomyさんが辿りついた「喪失の乗り越え方」

恋愛・結婚

更新日:2020/7/17

『失恋、離婚、死別の処方箋 別れに苦しむ、あなたへ。』(精神科医Tomy/CCCメディアハウス)

 人生では、失恋、離婚、死別など「もう戻らないあの人」への想いが断ちきれないことがある。「恋愛の痛みは恋で治すのが一番」「時間が解決してくれる」とは言うけれど、まだ前を向くことができそうにない時は、どうやって声にならない傷と生きていけばいいのだろうか。

『失恋、離婚、死別の処方箋 別れに苦しむ、あなたへ。』(精神科医Tomy/CCCメディアハウス)は、そんな苦しみに寄り添い、回復へのヒントを授けてくれる1冊だ。著者のTomyさんは、ゲイの精神科医。実はTomyさん自身、昔、最愛のパートナーと死別し、一時はうつ病のような状態になってしまったことがあったそう。朝起きたら泣きそうになり、夜がくるのが怖くなるほど悲しみに暮れる日々…。そんな経験をもとにした「別れの乗り越え方」には、生きたくない明日を乗り越えるためのヒントがある。

「大切な人との別れ」で人はどれほど傷つくか?

 かけがえのない人を失うと、文字通り身を切られる思いがする。死別だけでなく、復縁の可能性が限りなく低い失恋や離婚も、究極の別れだ。もう二度とこの手で愛しいあの人を抱きしめられないという喪失感は一体、私たちにどれほどのダメージを与えるのだろうか。

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 それを明らかにしたのが、ストレスの度合いを測る「ホームズとレイのストレス度表」。この表によれば、配偶者の死はライフイベントの中で最もストレス度が高い出来事なのだそう。実際、死別経験者の自殺率を見てみると、夫が妻に先立たれた場合、1年以内の自殺率はなんと66倍も上昇。妻が夫に先立たれた場合でも、10倍上昇することが分かった。

 また、死別後1年でのうつ病発症確率もおよそ15%と高いよう。こうした根拠からも、大切な人との別れが私たちの心に大きな衝撃を与えることは明らかだ。

 人は永遠に生きながらえることはできない。だから、死別も決して他人事ではない。いつか来る「大切な人の死」から目を背けるのではなく、真正面から向き合い、生きていくためにもTomyさんの回復プロセスは頼りになるのだ。

喪失後に心は4段階の「受容プロセス」を辿る

 大切な人を失うと、人の心にはどんな異変が現れるのだろうか。Tomyさんいわく、私たちは「ショック期」「フラッシュバック期」「抑うつ期」「受容期」という4段階のプロセスを経て、「別れ」を受け入れられるようになっていくのだそう。本書ではTomyさんが実体験をもとに、各時期の乗り越え方を詳しく解説している。

 例えば、葬儀や告別式などを済ませ、相手のためにできることがなくなり、時間ができると訪れる「抑うつ期」は以前と比べて動けなくなるが、それは精神状態が悪化したからではなく、緊張が解けて少し落ち着いて過ごせるような状態に移行したから。この時期はうつ病に移行する可能性もあるため、不眠や食欲の低下、動悸などの身体症状や日常生活への違和感などがないか気にかける必要はあるが、無気力である自分を受け入れ、無気力状態になり尽くしていくことが大切なのだそう。

 こんな風に、すべきことが細かく綴られている「別れの受容プロセス」には別れを経験した人に第三者としてできることや失恋や離婚の受容プロセスも解説されているので、そうした観点からもぜひ参考にしてみてほしい。

 また、本書内にはTomyさんが精神科医として診てきたさまざまな別れのケーススタディをQ&A形式で掲載。「別れの苦しみはどれくらい経てば消える?」「思い出の品は捨てたほうがラク?」など、誰しもが悩んだことのある疑問への温かいアドバイスは、希望が見えない自分に響く。なお、Tomyさんは別れと正面から向き合い、早く状況に慣れるための「書き出しワーク」も紹介しているので、こちらも実践してみてほしい。

「死」や「生」と向き合い、悲しみと共存しながら生きようと訴えかける本書は、凍ってしまった心を溶かしてくれる。一番穏やかだった時間が一番苦しい時間に変わってしまった人にこそ、届いてほしい。

文=古川諭香