「エグさの限りを詰め込んで、なお透明」――エブリスタと竹書房がタッグを組んだ“最恐小説大賞”第1回受賞作は、一人の少女に蒐集された高校生たちの物語

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/23

『ヴンダーカンマー』(星月渉/竹書房)

 ヴンダーカンマーとは、ドイツ語で“驚異の部屋”。中世ヨーロッパで流行した、怪奇珍品を陳列する蒐集室のことである。小説投稿サイト<エブリスタ>と竹書房がタッグを組んだ最恐小説大賞、第1回受賞作のタイトルも『ヴンダーカンマー』。著者・星月渉さんの故郷・岡山県津山市に実在する「つやま自然のふしぎ館」をモデルにした「城の里ふしぎ博物館」について語られるところから、物語は始まる。

 たとえば――胎児のホルマリン漬け。その大きさから、中絶は不可能な週数であるはずなのに、どうやって摘出されたのか。本当は胎児ではなくて嬰児なのではないか。第一話の語り手である高校生・北山耕平が、冒頭でそんな疑問を部活仲間たちに披露するにはわけがある。彼が、惨殺された母親の肉体から、犯人によって子宮ごと摘出されたおかげで生き延びた、被害者遺族だからだ。

 と、かなりセンセーショナルな展開をみせる本作。語り手は北山ひとりにとどまらない。章ごとに変わる語り手たちはみな、椿ヶ丘学園高校・郷土資料研究会の関係者である。数少ない特待生のひとりで人望のあつい生徒会長・南条拓也。名家の御曹司で人気者の東陸一。ミスコンで優勝するほどずば抜けて美しい西山緋音。そして顧問・渋谷美香子の娘である渋谷唯香。この唯香こそが、「自分のヴンダーカンマーを作りたい」といって会をたちあげた張本人である。

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 みずから声をかけた4人の部員以外は、誰ひとり入会させようとしない彼女の目的はなんだったのか。彼女はなにを蒐集しようとしていたのか。と、北山は仲間たちに問いかける。なぜなら、すべてを知る唯香はこの世にいない。高校の階段2階の手すりから、吊るされて死んでしまったから。それも、北山の母親がそうされたのと酷似した状況で。はたして犯人は、北山の母親を殺したのと同一犯なのか。凄惨な謎ばかりが提示されるなか、彼らは順々に一人語りを始め、さらに血濡れた真実がひとつ、またひとつと明らかにされていく……。

 と、最恐の名にふさわしい展開が続くのだが、ぞっとするのはすべてが“愛”のもと行われていることである。愛したい、愛されたい、大事にしたいし、さみしさからは逃れたい。つまりは、幸せになりたい。そんな、人間の根源的な欲求が、ねじれて歪んで悲劇を生む。残酷だけど優しくて、生きたいけれども死にたくて、誰よりも愛しているのに殺したいほど憎い、そんな相反する感情を秘めた人々の人生が重なり合うことで、悲劇は大きくなっていくのだ。

 さらに、“子供”という立場ゆえの不幸。子供は親を選ぶことはできないし、誰しも生まれたときから親の運命を一緒に背負わされている。その業が深ければ深いほど、子どもたちに選択肢は与えられないのだというのも、本作で描かれる恐怖の一つである。

「エグさの限りを詰め込んで、なお透明」と帯のキャッチコピーにあるとおり、ありとあらゆるタブーを犯した罪が描かれていく本作。だが、研究会に集められていたものの真実が明らかになったとき、そこには恐怖だけでない悲しみが浮きあがる。その切ないラストをぜひとも、見届けてほしい。

文=立花もも