決定!「コロナの時代の読書」特選レビュー3作 その3

文芸・カルチャー

更新日:2020/7/27

コロナの時代の読書

 ポストコロナではなく、ウィズコロナ時代となるのではないか、とも言われている現在。当たり前のように存在していた私たちの日常が、いま少しずつ変わろうとしている。そして人々の想像力のありようもまた、日々変化しているように思われる。そんな歴史の転換点において、いつも我々の道標となってくれたのは「本」の存在である。

 現在、KADOKAWAではコロナ禍の読書ガイド企画「コロナの時代の読書」を開催している(https://kakuyomu.jp/special/entry/readingguide_2020)。多くの作家・評論家が、コロナ時代に読むべき本について寄稿。また、読者が自由に投稿できる場「みんなで作る読書ガイド」も設け、これからの世界を生きるために携えるべき本のガイドが多数集められている。このほど、一般読者から募った投稿の中でも特に優れた「特選レビュー」が3作選ばれた。ダ・ヴィンチニュースでは、その「特選レビュー」3作品を皆様にお届けする。

 3作目は、キリンさんの「『鹿の王』読書で考える新型コロナウイルスとの共存」を。

『鹿の王』読書で考える新型コロナウイルスとの共存
キリン

鹿の王
『鹿の王』(上橋菜穂子/KADOKAWA)

『鹿の王』

「新型コロナウイルスと共存するこの時代に、おすすめの本の紹介」

 企画の募集内容を見た瞬間、私は、鳥肌が立ちました。
 こう思いました。「鹿の王」ほどぴったりな本が、他にあろうか、と。

「鹿の王」はジャンルで分類するならば、ファンタジーです。
 著者は『精霊の守り人』『獣の奏者』などで知られる、上橋菜穂子先生。

 そんな「鹿の王」は、2015年に、大きな賞を二つ受賞しています。
「第12回本屋大賞」、そして……、「第4回医療小説大賞」。

 そう、これはファンタジーの世界で繰り広げられる冒険小説であるとともに、医療小説なのです。

 この「鹿の王」の物語は、二人の主人公を軸に進んでいきます。
 謎の病が蔓延し、大勢の奴隷や監督官が死に絶えた岩塩鉱で、ただ一人生き延びた男、ヴァン。
 そしてもう一人は、岩塩鉱を襲った病の真相を探り、医療の本質を問い続ける、医術師のホッサルです。

 この二人の主人公の視点を、巧みに切り替えながら物語を進めていくのですが、特に医術師ホッサルが体験する物語は、新型コロナウィルスについて多くのことを調べ、様々なことを見聞きしてきた皆さんの心を、大きく揺り動かすことでしょう。決して、対岸の火事とは思えないのです。

 綿密な取材によって支えられた、医療に関する正確で巧みな描写も本作の魅力のひとつですが、それだけで終わらないのがこの「鹿の王」のすごいところ。

 特に、物語をより一層面白くしているのが、「医療の考え方が一つではない」ところ。
 同じく医療を志すものであっても、考え方は人によって大きく異なるのです。
 そして、考え方が異なれば、処置も異なります。

 作中では、大きく分けると3つの、考え方の異なる医術が登場します。

 そしてここに、国と国との思惑が、複雑に絡まり合うのです。
 ちょうど、今回の新型コロナウイルスのように。

 ですから、「病気について明らかにし、患者を治して、終わり!」と、そういうわけにはいかないのです。

 いま、世界は大きな変革の時を迎えています。
 増えていく感染者、各地で起こる暴動、疲弊する医療従事者。
 世界を覆いつくすような未曽有の事態に、人々は翻弄され、変化を余儀なくされるでしょう。

「感染者」としてヴァンは、そして、「医療従事者」としてホッサルは一体どんな結末を迎えるのでしょうか。

 未知の病や、病を取り巻く環境を、架空の出来事と思わせないほどのリアリティで鮮やかに描き出した本作。

 この機会に、是非一度、手に取ってみてはいかがでしょうか。

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