モフモフした“癒し系”山の女神に生贄として捧げられた青年の行く末は……? 胸キュン必至! 異種婚姻譚

マンガ

公開日:2020/7/25

モフモフでムコムコ
『モフモフでムコムコ』(みかんばこ/白泉社)

 モフモフしたお婿さんがやってくる異種婚姻譚かと思っていたら、モフモフした山神のもとに人間の青年が婿入りする話だったマンガ『モフモフでムコムコ』(みかんばこ/白泉社)。男神に女性が捧げられる話はよく見るけれど、このパターンは珍しいな……と読み進めると、かわいくて笑えて、しかもちょっとキュンとさせられる展開が、じわじわクセになってしまった。

 主人公は華族の四男・藤二郎。小説家としてちゃんと仕事をしているのに、引きこもりだしどんくさいしで、出来のいいアクティブな兄たちと比べられて肩身の狭い日々。そんな彼を心配して、母がもってきたのが「衣食住には困らない、跡取りのない地主のもとへ婿入り」という縁談。これ以上、両親に心配もかけられないと身一つで婿入りすると、相手はなんと、クマのように大きく全身毛むくじゃらの山神・ツキミだった。

 このツキミがとにかくかわいい。藤二郎のため、土だらけになって畑から芋を掘るし、風邪で倒れればかいがいしく看病するし、いなくならないでほしいといっては泣く。見た目を除けばごくごくふつうの、むしろ健気な女の子。

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 じゃあ、擬人化すればいいのでは? と思うかといえば、そうはならないのが本作の魅力。こうした異種婚姻譚マンガの場合、神様が人間の姿になることができたり、獣姿といっても手足はちゃんと伸びていたり、人間に寄せたビジュアルであることが多いと思うが(それはそれでもちろんいいのだが)、少なくとも今のところツキミが変化する様子はない。藤二郎は、あくまでモフモフしたそのままのツキミに癒され、萌えて、惹かれていく。それはただの動物愛では……と思いきや、それもまた違って、一生懸命にまっすぐな想いを向けてくれるツキミの人となりをも、ひとりの女性として愛しはじめ、嫉妬もするし欲情もする。その過程を何の違和感もなく描きだすのは、作者の力量だろう。

 本作が初単行本である著者は、〈ヒロインがこんなにも毛深くなるなんてデビュー当時の私は思ってもみませんでした〉とコメントを寄せているが、前代未聞のビジュアルをしたヒロインが、誰よりかわいく愛おしくなるという、まったくもって不思議な話である。神様ならではの“大切な人は必ず先に死んでいく”かなしみもさりげなく描かれるので、この2人にはいつまでも幸せに寄り添っていてほしい、できればその姿を長く見守っていたい、と読みながら思ってしまう。

 何百年も生きているのに純朴が過ぎるツキミに反して、意外と藤二郎がしたたかで“いい性格”をしているのもいい。熱を出した藤二郎に「ねぎをお尻に突っ込むといいって聞いた!」とツキミがやってきたときは全力で回避したくせに、ツキミが熱を出したら「大丈夫ですよ、油で滑りやすくしますし」と迫る。ツキミの亡き元夫が残したタンスから春画を見つけたら「これは素晴らしい!(芸術的に)」と興奮する。はたから見れば笑える痴話喧嘩と、愛の溢れる些細な会話を重ねながら、夫婦として成熟していく2人の今後を見守りたい。

文=立花もも