年間100万個を売り上げるTENGAの裏側には、涙ぐましい苦労があった! 商品開発、販売を巡る壮大な人間ドラマとは?

ビジネス

公開日:2020/7/25

愛・自由・平等 心やさしき闘士たち TENGAの革命
『愛・自由・平等 心やさしき闘士たち TENGAの革命』(中島隆/論創社)

 TENGAと言えば、今やデパートや百貨店、コンビニ、薬局にまで並んでいる男性用アダルトグッズ。1年間で100万個を売り上げ、60を超える国でも販売されるなど、グローバルな人気商品となった。だが、そこに至るまでの軌跡は実に険しく、涙ぐましい苦労があった。そうした軌跡を追体験できるのが、中島隆氏の『愛・自由・平等 心やさしき闘士たち TENGAの革命』(論創社)を読む醍醐味である。

 TENGA以前のアダルトグッズは、見た目も感触もグロテスクで、アダルトショップやアダルトビデオ屋でしか販売していない商品。恥ずかしながら買うのが普通だった。そして本書に登場するのは、そうしたイメージを根底から覆し、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変え」ようと格闘した人たちだ。

 TENGA社員は、従来のアダルトグッズが根付かなかった理由を考える。曰く、「性能が悪い。グッズのパッケージがおしゃれじゃない。ブランド名が書かれていない。グッズの説明がない。作っている会社の名前がない」等々。

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 会社はそれらをすべて改善してゆく。自慰行為を「セルフ・プレジャー」と言い換え、TENGAを買う時、使う時のうしろめたさをなくす。もちろん、実用性と実効性もある。泌尿器科では、早漏や遅漏、身体的心理的にセックスできない人にも、TENGAは使用される。

 TENGAに携わった人物たちのエピソードも面白い。TENGAを発明した元自動車整備士、商品の開発・改良に携わった技術者、営業で活躍した女性社員たち、医療にTENGAを用いた泌尿器科医、性欲処理に悩んでいた障碍者などが登場し、彼ら彼女らの悲喜が展開される。

 そして、TENGAを販売する会社は、後に女性のセルフ・プレジャー用に「iroha」という商品も開発することになった。これまで手に取りにくかった女性のためにも、徹底して洗練されたデザインにこだわったグッズ。インテリアの一部に溶け込むようなもの、化粧品のようなものが見られるのだ。

 また、従来のアダルトグッズは「女性が男性におもちゃにされている感」「支配されている感」があり、男性支配的な目線から作られていた。だが、本書を読むと女性が性のことを話すのははしたないとする世の中が変わるのではないか。そう思えてくる。

 逸脱するが、一切の虚飾がない、しかし余りにもドラマティックな彼らの試行錯誤は、NHKのテレビ番組『プロジェクトX~挑戦者たち~』で取り上げられて然るべき(無理だろうが)。とまれ、これは壮大でスケールの大きな人間ドラマだと断言できる。

 また、社会から白眼視され、「表通り」を目指してきた、という意味で、LGBTと称される人たちと、TENGAを使う障碍者やマイノリティーは親和性が高い、と著者は指摘。実際、NPO法人が主催するレインボープライドというイベントには、TENGAも協賛している。

 それにしても、本書に登場するビジネスパーソンの奮闘ぶりには頭が下がる。柔軟な思考と粘り強さを武器に、慣例や常識を次々に打ち破る。“仕事ができる人”というのはこういう人たちのことではないだろうか。本のタイトル通りに言い換えれば“心やさしき闘士たち”。彼らから学ことは、いくらでもあるはずだ。

文=土佐有明