元経済ヤクザが指南! コロナ禍では投資家デビューしないことが最大の投資のワケ

ビジネス

2020/7/28

ダークサイド投資術
『ダークサイド投資術』(猫組長(菅原潮)/講談社)

 新型コロナウイルスの影響で世界中の経済が大打撃を受け、人間でたとえると、致命傷クラスの大出血を起こしている。すぐにでも止血したいところだが、7月16日現在で有効なコロナ対策が「人と人の接触を避ける」ことだけ。言い換えれば消費活動を極力避けている状態なので、ヒト・モノ・カネの血液循環が生まれず、歯がゆい状況が続く。

 このままだと失血死しかねないので、応急処置として世界各国の中央銀行が金をジャブジャブ刷り、自国の企業の株を買い支えている。止血はできなくても大量の輸血をジャブジャブ続けることで失血死を免れようと、苦肉の経済対策を行っているのだ。

 日本もまさしくその状況で、3月に入って日経平均株価は大暴落。3月19日には16552円を記録した。しかしその後は上昇と下落を繰り返し、7月15日現在では22900円台まで回復。株価だけ見ると、まるで日本人が新型コロナウイルスを完全克服したかのような好調ぶりである。この裏では日銀の上場投資信託(ETF)の買い入れが大きく影響しており、ズバリこの株価は実体経済を反映したものではない。

 ところがこの日経平均株価の値動きを目の当たりにして、個人投資家デビューする人が増えている、という報道をチラホラ見かける。たしかにコロナ以前から、日本経済の衰退が徐々に浮き彫りになっており、政府も国民の投資家デビューを絶賛推奨していた。

 しかし株価が実体経済に即していない、新型コロナウイルスという爆弾を抱えた状況下で、大切なお金を投資に回すのはいかがだろう。コロナ関連のニュース次第では簡単に暴落し、すぐさま各国の中央銀行が買い支えで暴騰を引き起こし、現物取引だろうが信用取引だろうが、あなたの大切なお金が焼き尽くされるかもしれない。たとえ今は儲かっていても、コロナ禍において一寸先は真っ暗闇だ。

 投資家デビューを考える人や投資経験が浅い人こそ、「投資をしないことが最大の投資」という考え方もあるのではないか。

 このような警告を送るのが『ダークサイド投資術』(猫組長(菅原潮)/講談社)だ。著者は、かつて日本最大の暴力団組織に所属した元経済ヤクザで、インサイダー取引や石油ビジネスなど、黒いマネーを武器にウラの世界で暗躍した猫組長。このコロナ禍をしのぎ、アフターコロナを迎えても生き抜く投資術を本書で説く。本稿ではその極意を少しだけお伝えしたい。

資本量の少ない個人投資家が徹底すべきこと

 猫組長が本書を通じて訴えているのが、時々刻々と変わる状況を正確に把握して分析することだ。それが投資の勝ちにつながる。

 ITバブル崩壊やリーマンショックなど、00年以降では約10年おきに「○○ショック」が発生した。しかし今回のコロナショックは、これらの規模とまったく比較にならない。唯一候補に挙がるのが1929年に起きた世界恐慌だ。

 猫組長は「大規模なショックの中では自分の置かれた状況を見失うことがミスにつながる」と指摘。そのためジョン・K・ガルブレイス著『大暴落1929』などを読み、当時の世界で起きた出来事を知識として仕入れたそうだ。

 またこのコロナ禍において率先してやるべきは、自身がどの銘柄の株を保有しているかひとつひとつチェックし、損切りのラインを決めること。そしてアフターコロナを迎えたときに、どの業種の株価が伸びて、どういった投資環境が生まれるか徹底的にシミュレーションすること。

 なにより投資の世界において血も涙もない、揺るぎない事実がある。それは資本量が多い個人や組織ほど勝ち抜ける「資本のボリューム」だ。したがって資本量の少ない個人投資家が彼らと対等に勝負するコツは、狙いをつけた銘柄が予想に反した値動きをしたとき、感情を一切捨てて機械的に「損切り」すること。ボヤで多少の資金が溶けたとしても、また時期を狙って別の銘柄を仕込めばいい。最悪なのは、損切りが遅れて大切な資金が溶け去ってしまうことだ。

世界経済の動向を注視することの重要性

 本書では、個人投資家が身につけるべき投資術を解説することはもちろん、世界中の動向を分析する重要性も説いている。経済とは日本国内だけではなく、アメリカや中国をはじめとする“世界中”で連動しており、それらの動きを無視して投資はできないからだ。

 本書より一番分かりやすい例を挙げたい。コロナ以前の2019年において、アメリカは好景気を迎えていた。この裏にはトランプ大統領が意図的に株価を操作した「トランプ相場」があったのだ。

 言わずもがな、目覚ましい経済発展によってアメリカと中国の関係は緊張状態にある。トランプ大統領はこの関係を利用して意図的に「緊張」と「緩和」を生み出し、株価を上昇に導いた。本書ではこの過程を、図解とともに分かりやすく解説している。本書を手にしていない人は、2019年7月以降のYahoo!ファイナンスの「S&P500」や「ナスダック」のチャートを目にしながら読んでほしい。

・8月5日 人民元の1ドル=7元台への下落を受け、アメリカ財務省が中国を「為替操作国」に認定する(緊張→踊り場の創造)
・8月18日 トランプ氏がアメリカは「中国と非常にうまくやっており、話をしている!」とTweet(緩和→上昇)
・9月5日 USTR(米通商代表部)代表、ライトハイザー氏らと中国副首相、劉鶴氏が電話会談を行い「10月前半」の訪米に同意(緩和→上昇)
・9月11日 トランプ氏が10月1日に予定された30%への関税引き上げを15日に先送りすることを表明(緩和→上昇)
・9月20日 米中の次官級通商協議が終了、中国側の米農家視察中止で合意期待薄れる(緊張→踊り場)
・10月11日 米中両国が閣僚級会議で、「第1段階」といえる部分的な枠組みで合意に達した(緩和→上昇)
・11月27日 トランプ氏がデモの起きている香港の関連2法案に署名、中国側が反発する(緊張→踊り場)
・12月13日 トランプ氏とライトハイザー氏が第1段階の貿易協定文書で妥結(緩和→上昇)

 このようにトランプ大統領は、中国との間で起きた出来事を、Twitterを利用して流した。すると市場は、ポジティブなことが起きたときは「緩和→上昇」、ネガティブなことが起きたときは「緊張→踊り場」といった具合で反応。緊張と緩和を繰り返した相場は、下落と上昇を繰り返して、最終的に大きく伸びていった。これは株価を意図的に操作する「仕手師」にも通じる技であり、見事なトランプ相場が形成されたのである。

 トランプ相場で起きた値動きは、国やコロナの如何を問わず、いつどこでも起こりうる再現性の高い現象だ。できる投資家ほど世界各国の要人のSNSアカウントをフォローして、逐一彼らの言動をチェックしている。反対にそれができないならば、投資の勉強は続けても、今は投資に手を出すべきじゃないかもしれない。

 最後にもう一度、投資家デビューを考える人や投資家経験が浅い人へ、猫組長の言葉を借りてアドバイスしたい。

まず、新規参入してきた一般投資家に「今する最悪の投機」は「投資を始めることや継続すること」であり、「今する最良の投資」は「投資をやめる」ことだと断言したい。

 日銀による株価の買い支えで今は儲かっていたとしても、それがいつまで続くかは分からない。投資はリスクとリターンがセットだ。「投資にかける限度額をしっかり決めている」「無一文になってもいい!」という覚悟がないと安易に始めてはいけない。猫組長が説く「投資をしないことが最大の投資」という金言を、ぜひ噛みしめてほしいところだ。

文=いのうえゆきひろ

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