祝アニメ化!初めての恋、友情、そしてジャズとの出会い。優しくて切ない青春コミック

更新日:2012/6/20

坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)

ハード : 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:小玉ユキ 価格:432円

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坂道を登る息遣い、屋上を打つ雨音、そしてジャズのセッション…そんな聴こえないはずの音がなぜか耳元で響き渡る本作品。さみしさの隙間にもぐりこんだはじめての友情、恋愛、そして音楽との出会いが、昭和のレトロな空気感のもと瑞々しく描かれていて、古きよきメロドラマを見ているような懐かしさがある一方で、常に新鮮な驚きと躍動感が同梱されているのです。

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小玉ユキさんというのは不思議な漫画家さんです。
実は私、以前に『ダ・ヴィンチ』本誌でで「小玉ユキ特集」に関わったことがありまして、そのときつけたキャッチは「誰かを想って流す涙は、どうしてこんなにも美しいんだろう――」でした。小玉ユキさんの描く作品には涙、水が多く登場します。だからでしょうか、作品を読むといつも浄化されていくような感じがするのです。本作『坂道のアポロン』もそれは同じ。屋上に降り注ぐ雨や、ふと零れ落ちる涙が妙に印象的です。

出奔した母と船乗りの父という境遇から親戚の家に預けられ、肩身の狭い思いをしている薫。同じく姿を消した母と、見知らぬアメリカ人の父をもち、伯父夫婦の家で孤独をぬぐいきれずにいる千太郎。同じ孤独と苛立ちを抱える2人は、優等生と札付きのワルというキャラクターの違いはあれど、友達になっていくのです。

ジャズという音楽を通じて開かれていく、2人の世界。彼らの瑞々しい感情の動きは、読み手にも同じように新鮮さと躍動感を与えてくれます。そして、彼らの世界に光を射し、時に絶望を与えるのがはじめての恋。千太郎を想う律子に惹かれていく薫、美しい上級生に想いを寄せる千太郎。ままならない感情が交錯していくさまも、読みどころのひとつ。

苦しくて切なくて、でもとても優しい本作、ぜひ読んでみてください。


薫にとっては憂鬱でしかなかった転校初日だが。学校はきつい上り坂のてっぺんです

印象的な、薫と千太郎の出会い

最初は千太郎の粗暴さにドン引きするだけの薫だったが…

2人の距離を縮めた、屋上での雨

ジャズと、千太郎と律子の存在が、孤独な薫の心を照らすのです (C)小玉ユキ/小学館
※画面写真はeBookJapanのものです