650万PV超のWEB人気作が書籍化! すべてを失くした男装の姫君は、自分と向き合う旅に出る

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/29

精霊に愛された姫君 ~王族とは関わりたくない!
『精霊に愛された姫君 ~王族とは関わりたくない!』(藤宮/一迅社)

 毒親、ブラック部活、ブラック企業──人の健やかな成長を妨げる環境が、近年、センセーショナルな名を戴いて顕在化している。もしも自分がそんな環境に虐げられていると気づいたら、どうすればよいだろう。歯向かうか、すべてを捨ててその場から脱出するか……悩ましい選択だが、こういった環境に悩む人は、案外多いのかもしれない。

『精霊に愛された姫君 ~王族とは関わりたくない!』(藤宮/一迅社)の主人公、エレイン・オスローゼ公爵令嬢も、そんな環境に潰されかけていたひとりだ。

 エレインは、生まれ育ったハウゼント王国の王子・ユージルの婚約者として、幼いころから英才教育を受けてきた。けれど周囲がエレインを冷遇するのは、彼女が、天災もその地を避けるという“精霊に愛された国”ハウゼント王国において、「精霊との契約を交わせなかった出来損ない」だとみなされていたからだ。

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 だがエレインは、“通常の反応”が起きなかっただけで、精霊との契約を交わせなかったわけではない。契約の儀式を遂行したそのときから、エレインの頭の中には精霊の声が飛び交いはじめた。以降、エレイン──精霊に「フェイ」という名を与えられた彼女は、精霊たちの言葉を聞くことができる、世界でも稀有な存在となっていたのだ。

 精霊を身近に感じて育ったことで、エレインは、祖国の王侯貴族がありもしない精霊の恩寵に権威を借りて、領民を虐げていることを知った。彼女が国と将来に対する期待をすっかり失ったころ、決定的な事件が起こる。ユージル王子が、国の実権を握り、自らが望んだ娘を伴侶にするため、エレインに反逆の罪を着せたのだ。国外追放を命ぜられ、父にも謀られたと知ったエレインは、《どうしてほしい?》とたずねる精霊たちに、たったひとつの願いを告げた。「ここから……連れ出して」。

 精霊に願いを叶えてもらい渡った新天地で、男装しフェイと名をあらためたエレインは、数年後、腕利きの魔物討伐者として世間の話題をさらっていた。その評判は、王立討伐騎士団から指名の依頼が来るほどだが、フェイはもう王侯貴族と関わりたくなかったし、とある出来事をきっかけに、仲間を作ることも避けていた。そんなわけで、騎士団の依頼を断り続けていたフェイだったが、ある日、強大な魔物と対峙して大勢の命が失われた現場を見たこと、騎士団からの依頼内容が貴族派に潰されようとしている極小団への協力だと知ったことから、依頼を受諾する決心をする。その依頼を受けることは、フェイが心の奥にしまい込んだ、彼女自身の傷と向き合うことでもあった──。

 人生には、どうにもならないことがある。生まれや育ち、才能の有無。自分がそんな“どうにもならないところ”にいると気づいたとき、その環境から目を背けているだけでは、状況は変わらない。見切りをつけて逃げる、考え方を変える、問題の、または対応の形を変え乗り越える。この物語は、人生のさまざまな危機に立ち向かうための、勇気とヒントを示してくれる。

 すべてと引き換えに自由を手にした男装の姫君が、出会いと喪失を経験しながら前進していく650万PV超のWEB人気作を、今度は書籍で読める。本書の表紙を開いたなら、少女のみずみずしい成長を追う冒険の旅に、あなたも今すぐ加われるのだ。

文=三田ゆき