初めての整形は17歳。“六本木No.1のドーリー系キャバ嬢”黒崎みさが初著書で半生を語る

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/1

幸せって逃げ足速すぎてつかまえられないよ
『幸せって逃げ足速すぎてつかまえられないよ』(黒崎みさ/主婦の友社)

 Twitterのフォロワー数は17万人を超え、自身の整形の経歴やその後の赤裸々な心情を吐露した投稿は度々大きな反響を呼ぶ、現役キャバ嬢の黒崎みささん。彼女初の著書となる『幸せって逃げ足速すぎてつかまえられないよ』(主婦の友社)が7月31日に発売された。

 その愛らしいルックスから“六本木No.1のドーリー系キャバ嬢”とも称される彼女が書いたのは、フォトブックのようなビジュアルメインの本ではなく、彼女が整形に至った経緯や、これまでの半生、それを通じて感じた彼女の価値観や哲学が彼女の言葉として書かれた自伝的エッセイである。発売前に重版が決まっており話題の1冊だ。

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 書かれている内容は、なかなかに強烈だ。しかし、そこに無駄な湿っぽさはない。父親の経営失敗と蒸発によって、突如変化した家庭環境、バンギャ時代のネットでの誹謗中傷や、恋人からの暴言や暴力、自殺未遂に至るまで、淡々とした言葉で書き連ねられていく。

 父親が経営失敗で蒸発し、母親は専業主婦しかしたことがない家庭では、彼女が稼ぎ頭になるしか選択肢がなかった。高校生になってからは、平日はスーパーでレジ打ち、週末は当時流行っていたアキバのJKカフェで働く日々。その後、高校は1年で中退し、JKカフェ一本で働いた。家庭を支えていくためだ。そして18歳で手っ取り早くお金が稼げるからという理由で水商売の世界へと足を踏み入れる。

 著書の中で振り返られる彼女の半生には、彼女自身の「ただただ、そうするしかなかった」という諦念のようなものがある。ネットでも影響力をもち仕事も成功している彼女だが、決してキャバ嬢は「天職ではないかもしれない」と語るところにもそういった悟りのような感情が見てとれる。

 本書では、彼女が読者に向かって「こうあるべきだ」とか「こうした方がいい」と教える立場にまわろうとしないのが印象的だ。常に書かれる言葉は等身大で、どこかちょっと迷いや試行錯誤の跡が見てとれて、彼女はまだまだ自分に納得しきれていないのだろう、と感じさせられる。これは決してライフハック的な本ではなく、あくまで彼女の人生の進捗報告だ。

 本書での彼女の飾らない言葉には、すっと心に入ってくる不思議な読み心地がある。最初から最後まで、なんだか私ひとりに向けてぽつりぽつりと自身のことを語ってくれているような、そんな感覚があった。

 世間から見れば、圧倒的なルックスをもち、仕事に成功し、社会的な影響力ももつ彼女は「羨ましい存在」だろう。

 しかし、本書を読めば、どれだけ可愛くなっても、どれだけ仕事がうまくいっても、埋められない心の穴というのは誰にでもあるのだということがわかる。その穴の深さこそも彼女の魅力といえる。だからこそ共感され、さらに励まされる人もまた多いのではないか、と感じた1冊。

文=園田もなか