「これが働くこと、生きること」あと数年でなくなる仕事……それでも変わらない現場のリアル

ビジネス

公開日:2020/8/12

メーター検針員テゲテゲ日記
『メーター検針員テゲテゲ日記』(川島徹/フォレスト出版)

 5年くらい前からだろうか。「AIによってなくなる仕事」という言葉をよく見たり聞いたりするようになった。

 でも、よくよく考えてみると、私たちの生まれる前から、なくなった職業・新しく生まれた職業は数えきれないほどある。そして職種を問わず、働く人たちの思いも脈々と受け継がれている。

『メーター検針員テゲテゲ日記』(川島徹/フォレスト出版)のテーマは「これが生きること、働くこと」だ。著者は鹿児島県で企業と業務委託契約を結び、電気メーター検針員を10年務めた。タイトルの「テゲテゲ」は鹿児島弁で「適当に」「あまり一生懸命やらなくてもいいんじゃない」という意味だそうだが、本書には働くことの苦しさが具体的なエピソードと共に綴られている。

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“電気メーターを探し、その指示数をハンディに入力し、「お知らせ票」を印刷し、お客さまの郵便受けに投函する。1件40円”

 この仕事内容と給与額を見て、どう思うだろうか。

 私は時給や月給ではなく、件数で給与が支払われることにまず驚いた。一日の検針件数は200件から400件とのことだ。電気メーターが高所やわかりにくい場所にあり、なかなか見つけられないことがある。時には事故に遭ったり、検針に行った先でペットに襲われたりすることもあれば、メーター検針のために訪れた家の人に声をかけたにも拘わらず、不法侵入扱いされることもある。

 業務委託契約を結んでいる電力会社とやりとりする際の電話代は、著者が勤務していた時点では全て自費で、何かあれば現場に再び行かなければならない。だが、けがをしても予定より勤務時間が延びても、支払われる額は全て件数で換算される。業務委託契約だからだ。

 電気メーターを検針する家の人とトラブルがあっても、会社は実情を知らないまま検針員に手間のかかることを指示する。「検針員の声をもっと聞いてください」と言っても応じてくれない。努力してまとめたレポートは、褒められつつも上司や社員の立場がないという理由で上司のデスクにしまわれる。

“「検針員なんて、いくらでもおっとですよ」(検針員なんて、いくらでもいますよ)”

 そんな社員の言葉を耳にし、検針員たちは不満を抱えつつも生活のために仕事を続ける。

 現在、著者は70歳だそうだ。メーター検針員だった頃のことを綴った本書によって作家になる夢を実らせた。

 仕事で辛い思いをし、将来が不安になっても、著者は諦めなかった。不満は言葉にして業務委託先の社員に伝え、希望が通らなくても記憶に残し、本書に当時の経験をしたためた。

 働くって何だろう。辛い思いをしているのは自分だけではないか。読者がそう思ったとき、本書を読み切ってからあとがきを繰り返し読んでほしい。「自分はここで終わりじゃない」という確信が得られるはずだ。

文=若林理央