あさイチ出演で話題!ヨシタケシンスケの『あつかったら ぬげばいい』が教えてくれる、真面目な人がちょっぴり飄々と生きる方法

文芸・カルチャー

更新日:2020/8/25

あつかったら ぬげばいい

 昨年は、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞を受賞するなど、ヨシタケシンスケさんの絵本が読者を惹きつけてやまないのは、人は想像力によってどれだけでも自由になれることを、描き続けているからではないだろうか。

 最新絵本『あつかったら ぬげばいい』(白泉社)もそう。タイトルどおり「あつかったら」(暑そう)「ぬげばいい」(脱いだ)という2枚の見開きイラストから始まり、次のページは「ヘトヘトにつかれたら」「はもみがかずにそのままねればいい」。これこれ、と思う。目の下にクマができて、肩はがっくり落ちて、視線は虚ろのまま帰途につく。

あつかったら ぬげばいい

 そして、すべてを放り出して布団に倒れこむ女性。めちゃくちゃ細かく描写されている、というわけではないのに、どうしてこんなにも“限界”な感じが、真に迫って伝わってくるのだろう。そうだよ、そのまま寝ちゃえばいいよ! と読み手もいわずにおれない表現力である。

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 けれど、現実ではどうだろうか。着替えず、風呂に入るどころか歯も磨かず、化粧も落とさず寝てしまうことは「だめ」だと多くの人は思っている。

あつかったら ぬげばいい

「ふとっちゃったら なかまをみつければいい」……「そのままでいいや」と思える人がどれくらいいるだろう。「ひとのふこうを ねがっちゃったら なみうちぎわに かけばいい」……「人の不幸を願ったらだめだ!」と気持ちを抑え込む方向に考えがちではないだろうか?

あつかったら ぬげばいい

 本書で描かれるのは、ふだん「してはいけない」「やらないほうが望ましい」と思われていることばかり。ヨシタケさんはそのすべてを――起きてしまったこと、思ってしまったことを“改善”させようとはしない。どうしようもないことは受け入れて、自分が少しでも心地よく気持ちを転換できる方法を探せばいいんだよ、と教えてくれる。

「どうしてもかってほしかったら いいこのフリをすればいい」や「だれもきずつけたくなかったら じょうずなうそをつけばいい」なんかもそう。べつに、誰に対しても正直で誠実である必要なんてない。状況に応じて、対応なんて変えればいいのだと。

 読んでいくうちに、思う。この世は、なんて多くの「○○しなきゃいけない」に溢れていることか。法律で定められているわけでもないのに、無意識にすりこまれたルールがたくさん存在して、破るとまわりから非難されたり、勝手に罪悪感を覚えたりする。もちろん、自由に好き放題することだけが正解ではないし、ときには我慢することもひとつの選択だ。

 でも、「みんなのルールを守れない」自分も、「人にあわせてばかり」の自分も、責める必要なんてないし、自分の気持ちと状況を天秤にかけて、いちばんデメリットが少ない方法を選べばいいのだと素直に思うことができる。世界は他人との共存で成り立つものだけど、自分の人生しか人は生きられないのだから。

 きまじめで小心者な私たちの心に、ほんの少し「飄々とする」ための風を、ヨシタケさんはいつも送り込んでくれるのだ。

文=立花もも