和山やま連載作『女の園の星』は大事な情報は何も出てこないのに面白い!

マンガ

公開日:2020/8/16

女の園の星
『女の園の星』(和山やま/祥伝社)

 男子高校生の日常を描いた作品『夢中さ、きみに。』で、「なにこれジワる」的な表現を見事に漫画に落とし込み、数々の漫画賞を総なめにした和山やま先生。初連載作品『女の園の星』が、待望のコミックス化です。

なんでもない女子校の一コマを淡々と描く

 前作は男子校でしたが、今度の舞台は女子校。2年4組担任で国語教師の星先生が、同僚の先生方、生徒たちと心を通わせ合う様子を描いた学園ヒューマン・ドラマです。くくりでいうと、コメディとかギャグなのかもしれませんが、ここではあえてヒューマン・ドラマと呼びたいと思います。コメディにしては温度が低いし、ギャグにしては知的だからです。

 話は一話完結型で、学校でよくある(?)出来事や事件をテーマに、物語が進んでいきます。

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 生徒たちが交代で書く日誌。その備考欄ではいつからか、「絵しりとり」が始まっていました。毎日提出される日誌を見ながら、その日の絵しりとりが何を表しているかを考える星先生。ところがある日の絵は、何が描かれているか見当がつきません。職員室で一人、「ほ」からはじまるものを考え続ける星先生…。

 表情が乏しく、感情の起伏も少ない星先生が、絵しりとりについて1話まるまる使って考えます。それ以上の事件が起きるわけでもなく、生徒たちと絡むわけでもありません。ひたすら絵しりとりを考えるだけです。この話が特別なのではなく、全話通してこんな感じで進んでいきます。

 あるときは、生徒が窓の外を見て「犬がいる」と言います。学校ネタでおなじみの、校庭に犬が入ってきてテンションが上がるやつですね。と思いきや、そうではありません。ベランダを見るとそこには衝撃的な光景が広がっていたのです…。

 なんやかんやあって、星先生のクラスで犬を預かることに。ところが、その犬をめぐって生徒たちがとある事件を起こします。でも、やっぱり星先生は冷静です。いたずら好きな女子生徒を怒るでもなく、事件解決のために粛々と動くのです。

特別インパクトがあるわけじゃないのに記憶に残る人物たち

 この作品では星先生以外にも、多数の生徒、先生が登場します。職員室で星先生の隣に座る小林先生は、お寿司が大好き。星先生よりも明るい性格で、お喋りです。お寿司を食べない星先生に「人生損してる」と言い放ってイラつかせたりします。しかし、星先生に積極的に絡んでくれる唯一の存在なので、小林先生がいると星先生がたくさん喋ってくれます。

 女子校だから、生徒はみんな女子。2年3組の松岡さんは、授業中漫画を描いているところを星先生に目撃されます。そういえば学生時代、クラスに一人は、授業中に漫画を描いている子っていましたよね。松岡さんの描く独特な作品は、星先生と小林先生を驚愕させます。2年4組の鳥居さんは、こっそりある記録をつけていました。それが星先生に見つかり…。

 漫画的なインパクトのある人物は一人も出てきませんが、皆ちょっとずつ味わい深い個性を持っています。すごく特徴的というわけでもなく、言ってみれば地味な人物ばかりなのに、なぜか記憶に残る。不思議です。

「重要な情報がほとんど出てこない」という魅力

 学園が舞台ですが、今のところ恋も友情もスポーツも喧嘩もありません。そもそも、登場人物たちのバックグラウンドがまるで見えません。フルネームもわからないし、なんの部活なのかもわかりません。

 というか、この学校についても女子校という以外、ほとんど情報がありません。偏差値は低そうに思えませんが、生徒たちが適当に授業を受けているシーンがちらほら出てくるので、進学校というほどではないのかもしれません。1巻の最後にチラッと、星先生の人となりを知ることができるシーンがあるのですが、それが真実なのかは謎。このように、大事な情報はほとんど出てこないのに、星先生がいつも着てるスタンドカラーのシャツが商店街で3枚セット5000円だったとか、小林先生が毎週『サザエさん』を録画しているとか、どうでもいい情報はたくさん出てきます。

 登場人物たちがみんなミステリアスなので、考える余白が生まれます。読者たちは「この人、何考えてるんだろう」と思わずにいられないのです。本当に学校で起きている風景をただ見せられているような感覚です。

 しょうもない事件の連続なのに、「え? なにこれ?」という気持ちでいっぱいになります。そして、ページをめくる手が止まりません。そんなあなたはきっともう和山ワールドの虜なのでしょう。連載漫画なので、2巻に続くわけですが、一体何が起きるのか、それともこのまま何も起きないのか。あなたも星先生の日常を覗いてみてはどうでしょう。

文=中村未来(清談社)

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