人気ショートショート作家の最新刊は、常識にとらわれない転校生の活躍に捧腹絶倒!

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/22

転校生ポチ崎ポチ夫
『転校生ポチ崎ポチ夫』(田丸雅智:著、やぶのてんや:イラスト/小学館)

 物語の主要ジャンルである学園物において、クラスに加入した転校生が日常をガラリと変えてしまうのは鉄板ネタであり、古くは宮沢賢治の『風の又三郎』あたりが想起される。思えば小生も、自分のクラスに転校生がやってくると、まるで違う世界から来た人間のように思え興奮したものだ。 

『転校生ポチ崎ポチ夫』(田丸雅智:著、やぶのてんや:イラスト/小学館)は今、最も注目すべきショートショート作家・田丸雅智氏が小学生読者のために書き下ろした1冊である。田丸氏といえば2020年度より使用される小学4年生向け国語の教科書(教育出版)にショートショートの書き方講座が採用されたことでも話題となっている。勿論、一般向けの著書も多数あり、そんな氏が描き出した小学校の日常を「ぶっ壊す」物語は、小学生たちだけでなく我々大人も魅了するはず!

 ある日、平凡な小学生「ソウタ」の教室で転校生が来るとの噂話で盛り上がっていると、横から「転校生」というだけに学校を転がしちゃうようなヤツかもしれないよ」と声が。みんなが笑ってしまうものの、気づくとそこには見知らぬ男子が。ソウタは「ってキミはだれ!?」と驚くものの、その男子は「機会があったらまた会おう」と去っていく。ソウタがポカンとしてると授業開始のチャイムが鳴り、担任が噂の転校生を連れてきた。彼こそが、今出て行ったばかりの「ポチ崎ポチ夫」だった。

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 クラス中が呆気にとられる中、ポチ夫は自己紹介として「人間には、変化を楽しむタイプと、変化を恐れるタイプの2種類がいます。人類というのは、もともと環境の変化に適応することで生き延びてきた生き物であるわけですが、僕も転校というこの変化を前向きにとらえ、楽しみたいなと思ってます」とあいさつ。ソウタは言葉の意味が理解出来なかったようだが、大人であるほどポチ夫の言葉はよく分かる。

 ともあれ、ポチ夫の行動はソウタたちの日常を塗り替えていくのだが、最初の騒動は「廊下50メートル走」と、いきなり先生たちが頭を抱えそうな話。ある日から、ポチ夫は教室を移動する際に廊下を走るようになった。曰く「人生っていうのは、長いように思えるけど、じつはとっても短いものなんだ。ぼんやり歩いてたりなんかしたら、あっという間に終わってしまうよ。だから、ボクはいま、人生という短距離走にこうして全速力で挑んでるんだ」と持論を展開。

 当然、ソウタたちは「危ない」と注意を促すものの、ポチ夫のペースに引き込まれタイムを計ることになり、やがて先生公認で「学校対抗廊下50メートル走大会」が開催となる。シュールな展開が大好きな小生も、この筋立てには驚かされた。仮にも小学生向けである作品で、廊下を走る話など、編集会議で物議を醸さなかったのか? とはいえ、実際の小学生たちは注意されても走るし、小生など中学生になっても雑巾がけ競争してたし……。

 ほかにも、ポチ夫の暴走は様々な方面に及ぶ。ある時は校内で喫茶店を開業したり、またある時は授業中に服のネットビジネスを始めたりと精力的。飄々とした雰囲気ながらも大胆な行動力には大人の小生も憧れる。しかも成功させておきながら、しばらくしたらさっと身を引き自身は別のことを始めてしまうしなやかさ。またソウタたちも振り回されっぱなしのようでいて、案外と状況を楽しみ自ら手伝ったりしている。

 ポチ夫の型破りさは、間違いなく現代の小学生たちの憧れとなるだろう。真似をしだす事例もあるかもしれないが、そうなると先生も親も困るのは目に見えている。だからこそ小生は本書を大人たちにもお勧めしたい。ポチ夫の姿から学び、子供たちから見て「カッコイイ」大人として説得力を持てばよい。ただ、ポチ夫は成功すると、すぐに退いてしまうのでその先は自身で考えてほしい。

文=犬山しんのすけ