謎多きイケメン学芸員が“呪い”にまつわる事件に挑む! “呪い”の存在は証明できるのか

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/25

学芸員・西紋寺唱真の呪術蒐集録
『学芸員・西紋寺唱真の呪術蒐集録』(峰守ひろかず/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 この世に、“呪い”は実在するのか――。シリーズ累計28万部突破の伝奇ミステリ『絶対城先輩の妖怪学講座』などで人気を博す、峰守ひろかずさんの新作が発売された。タイトルは、『学芸員・西紋寺唱真の呪術蒐集(しゅうしゅう)録』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)。ずばり、“呪い”を題材にしたミステリー小説だ。アンティーク博物館、謎多きイケメン学芸員、そして不可解な現象の数々…。怪しさ満点な本作の魅力を紹介したい。

 物語の舞台は、円覚寺や東慶寺などで知られる北鎌倉。美術館の学芸員を目指す宇河琴美は、実習のためとあるアンティーク博物館を訪れる。そこで待ち受けていたのは、“博物館界のプリンス”こと西紋寺唱真。「呪いの専門家」として深い知識を持ち、顔立ちも整っている西紋寺は、その道では有名な変わり者であった。言葉づかいは丁寧で頭もキレるのだが、節々に毒が混じる慇懃無礼なキャラクターだ。琴美は、押しの強い彼のペースに巻き込まれ、次々に“呪い”にまつわる実習を受けることになる。

 最初の実習は、「丑の刻参り」。頭に火のついた蝋燭を付け、藁人形に五寸釘を打つというあれだ。琴美は夜12時半に西紋寺に呼び出され、なんと実際に呪いをかけることに。しかも、呪う相手は西紋寺本人だという。白装束に着替え、神社へ向かうと、どこからか釘を打つ音が聞こえてくる…。そう、琴美のほかにも、「丑の刻参り」をしている人物がいたのだ。そこにいたのは、頬がこけ、顔色のわるい女性。彼女は、五寸釘で誰を呪おうとしていたのか。そして、琴美の実習は成功するのだろうか。

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 琴美と西紋寺のもとには、こうした“呪い”にまつわる事件が集まってくる。第2話「獣人型有孔木製人形」では、琴美の友人から「呪いの話」が持ち込まれる。祖母が亡くなる直前、病院のベッドの上で不気味な人形を持ち上げながら、何か念じるようにつぶやいていたという。死を前にして、彼女は何を思っていたのか。第3話では、自称西紋寺の親友・鈴島拡が登場する。上野にある文化博物館の学芸員である彼は、展示品のひとつ「鬼の頭骨」の祟りと思われる現象に悩まされていて…。

 そして最終第4話「呪術師の祭壇」は、西紋寺が“呪い”の存在に魅入られるきっかけとなった出来事と向き合う、本作のクライマックスだ。彼は、その身に呪いを受けてもいいというほどに、呪いの実在を証明したがっている。そこで浮かび上がってきたある呪術集団の存在。琴美と西紋寺が調査を続けていると、怪しげな男が博物館を訪れる。自らを本物の呪術師・巫鬼神薙(ふくいかんなぎ)と名乗る。

 本作のミステリーとしてのおもしろさは、「呪いは存在するのか?」という謎にある。琴美たちの前で起きる不思議な事件は、どれも「呪いがあるかもしれない」と思わせるものだ。しかし、それが呪いによるものだと証明するのはむずかしい。どんなに呪いと思しき現象が起きても、それが科学では説明がつかないことを証明しなくてはならない。西紋寺は、不可能にも思えるこの難題に挑む。

 そして、忘れてはいけないのが、数々の事件を解決していく西紋寺と琴美の掛け合い、キャラクターの魅力である。学芸員を目指す琴美になにかと厳しい西紋寺が、ときおり見せるストレートな褒め言葉はグッとくる。普段の毒舌とのギャップがすごいのだ。不意打ちで訪れる西紋寺の心の底からの笑顔に、思わず照れてしまう琴美もかわいい。“呪い”の謎とふたりの関係、どちらも追いかけたくなる新シリーズだ。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7

『学芸員・西紋寺唱真の呪術蒐集録』作品ページ