少女の死に隠された真相は……。謎解きが終わった後に展開するラスト16ページの奇跡に驚愕!

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/31

空想クラブ
『空想クラブ』(逸木裕/KADOKAWA)

 小学校時代の同級生だった真夜が、川で死んだ。葬儀からの帰り道、空想好きの中学生・吉見駿は川岸に佇む真夜の幽霊を見てしまう。真夜の魂を解放するために、駿はかつての仲間たち――「空想クラブ」のメンバーに協力を求めるが……。

 横溝正史ミステリ大賞受賞作の『虹を待つ彼女』(KADOKAWA)をはじめ、『星空の16進数』(KADOKAWA)、『電気じかけのクジラは歌う』(講談社)と、専門知識に基づいた理系ミステリーを次々に放つ俊才・逸木裕さん。最新作『空想クラブ』(KADOKAWA)は、ある少女の死からはじまるミステリー小説にして青春小説、そして少年少女の成長を繊細な筆致で綴ったビルドゥングスロマン(成長小説)だ。

 物語は駿が6歳の頃、父方の祖父から「空想する能力」を受け継ぐところから幕を開く。

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「この世界のあちこちには、たくさんの〈窓〉が隠されてる。そこを開くことができれば、お前は色々な世界を見ることができる」

 祖父がそう語るとおりに、駿はその場にいながらにして世界中のどの光景も、見ようと思えば見ることができる。だけど、祖父のように存分に力を使いこなせないことに、かすかな罪悪感を抱えている。

 そんなある日、小学校時代に仲よしだった友人のひとり、真夜の訃報がもたらされる。彼女が命を落とした川へ足を運んでみた駿は、なんとそこで真夜と再会。彼女は河原周辺から移動することのできない、いわば地縛霊の状態となっていた。

 実は真夜の死には、不可解な点がいくつかあった。

 本人曰く、塾の帰りに河川敷を自転車で走っていたら、川の方から子どもの悲鳴が聞こえ、助けようとしたところで川に転落し、気づいたら死んでいたという。その子はどうなったのか? 無事なのか、それとも……。

 その子の安否を確認することができたら、自分はここから解放されると主張する真夜。駿は自らの能力を駆使して、真夜の死の真相を探りはじめる。

 その過程で駿はさまざまな体験をしてゆく。疎遠になっていたかつての友人たちと再び連絡を取り、真夜を助けるという目的のもと新たな関係を紡ぐ。生前の真夜が夜空を熱心に調べていたと知り、自分もまた宇宙への興味を抱くようになる。それと共に真夜への淡い想いを自覚して、彼女を自由にしてあげたい気持ちと、ずっとこのまま一緒にいたい気持ちの板挟みになって苦悩する。

 町で札つきの不良が真夜の死に関わっているらしいと気づいてから、駿は急速に“少年”から“男”になっていく。勇気を振り絞って不良グループと対峙し、ついに真実にたどり着く。しかしそれは真夜にとって残酷極まりないものだった。

 本作の真骨頂は、すべての謎が解けた後から展開する、最後の16ページ部分だと思う。「空想クラブ」の仲間たちがみんなで一致団結し、真夜のために奇跡を起こす。世界の秘密が隠されている〈窓〉に向かって手を伸ばし、真夜がその死の直前まで切望していた願いを叶えようとして。

 駿は真夜の手をとり、こう語りかける。それはまるで恋の告白のようにも聞こえる。

「空想するんだ。ぼくたちが見たいものを」

 見えないものを見る。聞こえないものを聞く。そんな世界を空想の力によってつくることができたら、僕たちはいつかきっとまた会える――と。

文=皆川ちか