「しつけ」と「叱る」の違い、毒親トラウマとの向き合い方は? 『この子はこの子のままでいいと思える本』で育児の悩みが解決

出産・子育て

公開日:2020/9/7

この子はこの子のままでいいと思える本
『この子はこの子のままでいいと思える本』(佐々木正美/主婦の友社)

「子どもを叱るのは良くない」とよく言われますが、それはなぜでしょうか。また、“しつけ”と“叱る”は何が違うのでしょうか。そんな子育ての悩みに明確に答えてくれるのが、『この子はこの子のままでいいと思える本』(佐々木正美/主婦の友社)です。

 著者である児童精神科医の佐々木正美さんは、臨床の現場から少年院までさまざまな場所に足を運び、けっして幸せとはいえない親や子どもとも接して話を聞き続けてきた方。2017年に逝去されるまで、ママ向け雑誌『Como』に連載されていた「子育て悩み相談室」の内容が本書にまとめられています。

“しつけ”と“叱る”の違いは?

 本書によれば、“してはいけないこと”など子どもに多くのことを教えるために、「こんなことは、するもんじゃないよ」「こうしたらいいんだよ」と親の価値観を穏やかにくり返し言って聞かせるのが“しつけ”。感情まかせに怒鳴ったり命令したりするのは“叱る”です。そして、たくさんの親子を見てきた著者がこれだけは確かだと思っているのは、子どもは叱れば叱るほど「叱られる子」になってしまう、ということです。

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 その言葉の意味とは? 子どもは確かに叱られることをしますが、それを叱って行動が変わるわけではなく、叱る回数が多いほど叱られるような行動が増えていくそうです。大事なのは、叱りたくなっても優しく穏やかに伝えることだといいます。

 考えてみれば、大人でも1日何回も叱られたら、屈辱感と劣等感だけが植え付けられ、「じゃあもっとよくしよう」なんて思えないのではないでしょうか。それよりも、我が子のいいところ、褒めたくなるところ、好きなところを一生懸命考えて伝えることで、子どもの叱られるような行為は少なくなっていくそうです。「叱らないで育てる」ことができたら、親子共々ストレスが減っていきそう。そのために、子どもに対して「叱られない子になってもらおう」と思うのではなく、親が先に変わることが大切です。

暴言や暴力は子どもの人格を壊す

 著者は「しつけと自尊心を傷つけることはまったく別」とも指摘します。たとえば、「バカじゃないの?」といった暴言を吐いたり、叩いたりすることは、子どもの自尊心を踏みにじる行為。子どもの人格そのものを壊し、成長してからも尾を引いて、人間関係などに良くない影響を与えることも。

 自尊心とは「あなたは価値のある人だ」と周りから認められ、大切にされるからこそ育つもの。ひどい言葉を口にした時には「さっきはごめんなさい」と謝れば子どもの自尊心は守られ、子どもがお手伝いなどをしてくれたら「ありがとう。助かったよ」と伝えることで、子どもは「自分は役に立つ人間なんだ」と感じ、自尊心が育っていくそうです。

かわいがることを難しく考えないで

 子どもを温かく見守り、いかに子どもがかわいいのかを伝えてくれるのも、著者の教えのひとつです。子どものワガママにも「甘えたいんですね。かわいいじゃないですか」と語る著者の言葉は心強く、「そうか、甘えたいだけだったんだ…」と思えて泣けてきます。試しに、我が家のワガママ息子を叱る代わりに抱きしめ、その言葉に穏やかにうなずいていると、いつもより素直に言うことを聞いてくれました。本書に書かれた「子どもは言うことを聞いてくれる人の言うことを聞く」という言葉を思い出します。

 個人的に気持ちがラクになったのは、子どもを甘やかす時間が短くても充実していればいい、ということでした。子どもって、家事などで忙しくしている時、親にまとわりついてきますよね。そんな時、やりにくいけど、着ている洋服につかまらせておくだけでも子どもの心は満たされるし、おふろだって体を洗うというより水遊びのつもりでOK。のんびりした気持ちで、親が笑顔でいるだけでも子どもは幸せだし、かわいがるほど“いい子”になっていく、と著者は語ります。

 親もまた、育児で悩んでいるということ自体、子どもを大事に思っている証拠。だから、どんな親も、もっと子どものワガママを聞いて、思いっきり甘やかしていいのです。いわゆる毒親を持つママやパパについても同じで、自分が親にされた嫌な育児しかできないことはないし、嫌だったことを我が子に引き継ぐ必要はない。同じようなつらい想いを我が子にさせないためにも、子どもにわかりやすく愛情を伝え、“親のほうから”率先して躊躇なくかわいがることを著者はすすめています。

 他に、いじめや犯罪に加担しやすい子どもの特徴や、虐待、ひきこもりなどの問題について、幸せとは言えない子どもを見てきた著者だからこそ、当事者の気持ちを考えたリアルなアドバイスが語られているのも本書の特徴です。

親子の関係が、将来の人間関係に影響を

“この子はこの子のままでいい”と思える日がくるまで、子どもを変えようとする代わりに親が変わるための具体的な考え方と方法がまとめられているのが本書です。人が幸せに生きていくための要は人間関係であり、よい人間関係をつくるための力は子ども時代の親子関係のなかで育っていくものだと著者は語ります。そしてそれは、一朝一夕でできるものではないのだと。その言葉を胸に、たまにイライラすることもあるけれど、焦らず、できるだけゆったりした気分で我が子と接していこうと思いました。

文=麻布たぬ