触れる者皆を死に至らしめる王子×不死の呪いを持つ少女。2人の運命は……? 王道主従ファンタジー『呪い子の召使い』

マンガ

公開日:2020/8/25

呪い子の召使い
『呪い子の召使い』(柴宮幸/白泉社)

 努力だけでは払拭しがたい、親や社会から背負わされた枷を「呪い」と呼ぶのならば、私たちもまた「呪い子」の一人かもしれない。『呪い子の召使い』(柴宮幸/白泉社)で描かれるのは、触れるものすべてに毒を与え死に至らしめる「呪い」を受けた少年王子のアルベールと、尋常ならざる生命力を見込まれて彼に仕えることになった少女・レネの物語。自分のせいで誰かが傷つくのをおそれ、他人を拒絶するアルベールの心を、簡単には死なないレネが体当たりのコミュニケーションで開いていく、その過程にももちろんきゅんとするのだけれど、読んでいていちばん心打たれたのは、アルベールの命を狙う、ある人物のこのセリフ。

〈呪いを持っているのは呪い子だけじゃない〉
〈生まれ・環境どうすることもできない足枷という呪いを皆もっているはずだ〉
〈それなのに守られるのは奴だけ〉
〈不公平だろ? 同じ呪いを持つ者なのに〉

 もちろん“触ると死ぬ”なんてガチの呪いと、その人物が訴える環境の不遇を一緒にしてはいけないのかもしれない。けれど、生きることに投げやりだったアルベールは、レネとの出会いをきっかけに、守られているだけの立場を脱して、守る側に立つために少しずつ、呪いを制御する方法を会得していく。

 一方で、そのセリフを発した人物は、自分を憐れみ続け、他人を妬み、課せられた呪いをみずから増幅させてしまった。きっとその人物にだって、アルベールにとってのレネのような存在は、探せばいたはずなのに。

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 呪いの根源となるのは、孤独な心が育てる憎悪だ。アルベールにかけられた呪いも、そう。毒を飲んだ息子(アルベールの兄)の死に耐えられなかった、母親の悲しみに起因する。暗殺を疑う母に対し、王宮は事故死の判断を覆すことはなく、ありとあらゆるものを憎みながら彼女は衰弱死してしまった。その想いが呪いと化してアルベールにふりかかったのは、次男までも毒で死なないための願いであり、息子以外のすべてを滅ぼそうとする復讐でもあっただろう。

 そして一歩間違えればアルベールもまた、新たな呪いの種となったかもしれないところを救ったのが、レネである。馬に蹴られて頭を割られても死なないレネも実は、不死の呪いをかけられた呪い子であるのだが、果たしてその過去には何が隠されているのか……。2巻以降で明かされていくのが楽しみである。今はまだ、子ども扱いされがちなアルベールと、やや天然なレネの関係がどう変化していくのかも期待大。

 ラストに収録されていた、塔の番人であり騎士団長のギョームの描きおろし短編も要注目。「お前だけが俺の召使い」とレネを強く想うアルベールだけれど、召使いとは違うものの、ギョームの献身もかなりのものであるのが短編を読むとわかる。だけとか言わないであげて! と思うのは野暮かもしれないが、今後も陰日向なく活躍するだろう彼の動向も見守りたい。

文=立花もも