発達障害「グレーゾーン」の人たちが職場での困りごとを解決する方法

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公開日:2020/8/28

大人の発達障害 グレーゾーンの人たち
『大人の発達障害 グレーゾーンの人たち』(林寧哲、OMgray事務局:監修/講談社)

 発達障害が社会に認知されるようになって、およそ20年。様々なメディアでその特性が取りあげられたり、実生活でどのような問題が起きるのか解説したりと、発達障害について
少しずつ明らかになってきた。

 しかし発達障害の当事者たちは、特性を知ることで理解が深まっても、日常の困りごとから解放されるわけではない。また診断そのものが難しいという一面があり、発達障害「かもしれない」という「グレーゾーン」の人たちの存在も指摘されている。

 グレーゾーンの人たちの多くは、その特性に振り回されることで社会生活に困難を覚え、生きづらさを感じるようになる。その結果、引きこもってしまったり、他人に攻撃的になったり、不安が止まらなくなったり、抑うつ状態からうつ病を発症したりと、「適応障害」を併発してひどく苦しむ。最悪の場合、自殺してしまうこともある。

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『大人の発達障害 グレーゾーンの人たち』(林寧哲、OMgray事務局:監修/講談社)は、発達障害の特性から、日常の困りごとへの対処法など、グレーゾーンの人たちに焦点を当て、生活向上を目標にアドバイスを送る。さらに職場で関わる人たちにも、彼らと上手に付き合う提言を述べている。

 ここではその一部をご紹介するので、辛くて息苦しい悩みごとを抱えているときは、ぜひ解決のヒントにしてもらえれば幸いだ。

改めて発達障害とは?

 発達障害にはいくつかの種類があり、それぞれに特性がある。すでにメディアで目にした人もいるかもしれないが、改めて代表的な3つの発達障害をおさらいしたい。

 自閉性特性を持つため、こだわりが強く、暗黙の了解やコミュニケーションなどの社会性に困難がある「自閉スペクトラム症(ASD)」。

 不注意、注意散漫、多動性、衝動性の特性を持つため、仕事をはじめとする物事の遂行に困難がある「注意欠如・多動症(ADHD)」。

 読み・書き・計算などのうち、特定のことだけが極端にできない「学習症(LD)」。このLDは、ほとんどは子どものころに見つかるので、大人になってから診断されることはまずない。

 このほか上手に運動ができない「発達性協調運動症」、意図せず突発的に体を動かしたり発声したりする「チック症」などがあり、詳細を知りたい人は本書を読んでほしい。

 発達障害を抱える人たちは、子どもの頃から人間関係や日常生活の様々な場面で失敗を繰り返して自信を失ったり、社会人になって業務を適切に遂行できず悶々としたりと、心身を削るような経験をたくさんしてきた。

 やがて「なぜこんなことができないのか?」「どうしていつも同じ失敗を繰り返すのか?」と自分を疑う機会が増えていく。多くの場合、大人になってから「わたしは発達障害なのだろうか?」と思うようになり、医療機関へ駆けこむ。

医療機関での診断はあまり期待しない

 発達障害は医療機関で診断が可能だ。「白」と「黒」でたとえるならば、発達障害の特性が濃いほど「黒」であり、医師がはっきりと「あなたは発達障害です」と診断できる。一方で特性が薄いほど「白」であり、はっきりと「あなたは健常者です」と診断できる。多少のこだわりの強さや多動がうかがえる場合でも、「個性」とみなせるわけだ。

 主な診断方法は、幼少期の体験や現在の困りごとを聞く「問診」と、アメリカ精神医学会が作った診断基準に沿って行う「検査」のふたつ。医療機関によって違いはあるが、多くは当事者の申告による「問診」が中心となる。

 ただし問診があまりアテにならないことも多いようだ。人間の身体が機械じゃないように、発達障害の濃淡も人それぞれ違う。ある人はASD特性が濃く出ているけれど、ある人はASDとADHDの両特性が出ていることもある。さらに別の人はASD特性を訴えているけれど、どちらかというと説明がアチコチに飛ぶADHD特性のほうが強いように見える。発達障 害の表れ方は本当に千差万別だ。

 骨折は「骨が折れる」という「目に見える症状」があるけど、発達障害はそれ自体が目に見えるわけじゃない。そのため当事者の説明(問診)の過不足によっては、予想と違う診断がされたり、そもそも発達障害じゃないと診断されたりと、医師も当事者も納得のいかない微妙な結果に収まるときがある。

 それが、発達障害の傾向がある「グレーゾーン」な人たちだ。白と黒の間の、無限に広がる濃淡の中で煮え切らない思いを抱く。

 たとえ発達障害の診断を得られたとしても、今までの日常が劇的に変わるわけではない。だから大切なのは、適切な診断を医療機関に求めることではなく、どうやって今の生活をよりよい方向へ導くか検討することだ。

職場で上司や本人が困っているときの対処例

 発達障害やグレーゾーンの人の困りごとの多くが、対人関係や仕事の遂行を占めている。あえて言い換えれば、職場の人たちも彼らに頭を悩ましていることになる。

 発達障害は治る病気ではないので、当事者に改善の努力を強く求めても、なかなか好転しない。だから「なんでいつも1~2分の遅刻をするんだ!」と怒るのではなくて、「いつも遅刻をしている理由はなにかな? 体調が悪いわけじゃないなら、遅刻を防ぐ方法はあるかな?」と、両者が歩み寄って解決する姿勢が大切だ。

 たとえば仕事の締切を守れないならば、上司が締切の日時を「数字」で明確に示した後、メールでも伝えて記録に残し、随時仕事の遂行を確認する。数字での認識が難しいならば、ボードを使って図解で説明する方法もあるだろう。

 発達障害やグレーゾーンの人たちは刺激に対して敏感な一面がある。そのため蛍光灯がまぶしくて業務に支障が出ているならば、日差しの入る窓側に移動して様子をみてみる。もし職場の物音や話し声がわずらわしくて困っているならば、耳栓で解決できないか試してもらおう。

 何かしらの特性で営業の仕事に困難があるならば、事務や製造など、別の職場への異動を検討してみよう。ある人は単調な作業が苦手でも、別の人は単調な作業が苦にならないこともある。いずれにせよ適材適所な人事異動の良い機会かもしれない。

 また発達障害やグレーゾーンの人たちは、自身の抱えるストレスを認識しづらく、自分から困りごとを言えなくて孤立することも多い。そこでストレスの有無や程度を調査するストレスチェックを行って、本人の状態を把握したい。本書によれば、発達障害やグレーゾーンの人たちは真面目で実直な人が多いので、上司が腰を据えてじっくり話し合い、本人の長所と短所を見極めて業務改善を行う方法もあるだろう。

 本書では様々な提案がなされているが、大切なのはこれらの改善を気づいたほうから働きかけることだ。理想的な企業の在り方とは、働く人を大事にして、常に職場が業務改善を行いながら利益を拡大していくこと。とても個人的な意見だが、職場に困りごとを抱える人がいることを把握していながら、それを放置したりパワハラしたりする企業ならば、早めに見切りをつけて転職活動を始めてもよいように思う。困ったときに双方から歩み寄ることができてこそ、ゆとりある社会であり、働きがいのある理想的な職場のはずだ。

 そしてもうひとつは、やはり発達障害について正しい理解を得ることだ。正しい理解がなければ、正しい対処ができない。本書はそのよい機会であり、生きづらい日常を解決するヒントがあるはずので、困っているならばぜひ参考にしてほしい。

文=いのうえゆきひろ