身の毛がよだつ…!? 毒母に墜ちていく女性視点で描かれる子どもの描写が実に巧妙で恐ろしい
公開日:2020/8/28
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《以下のレビューは単行本刊行時(2017年10月)の紹介です》
「毒親」という単語が広く使われるようになった現代。幼稚園・小学校の入学前から始まる熾烈なお受験戦争、交友関係の制限、スケジュール一杯に詰め込まれた塾やお稽古…「こんなに高いお金を注ぎ込んだのに、どこの小学校にも受からないだなんて!あなたはどれだけお母さんを失望させれば気が済むの!」
子を愛する親はどれだけ気を付けていても、子どもに対して過干渉・過保護になってしまう瞬間を経験するものだ。それでも、適切な距離感を保って子の自由意思を尊重してあげるのもまた親の愛。それが健全な親子関係なのではないか。しかし「毒親」の領域にまでなると、どうやらその“距離感のぶっ壊れ方”は想像を絶するものであるらしい。毒親によって子どもが精神的に殺されていく。一体何が毒親をそこまで向かわせるのか。それ以前に、普通の親になるはずだった人間が、どんな要因によって毒親へと変わっていくのか。それは毒親を身近に経験したことのない私の安易な想像など到底及ばぬ領域の問題なのだろう。それでも、この小説を読んだらその構造が少しずつ見えてきたような気がする。『毒母ですが、なにか』(山口恵以子/新潮社)をご紹介したい。
主人公の「毒母」ことりつ子は、16歳で両親を亡くしている。親族に引き取られ、数々の屈辱的な体験をした彼女は、寂しさと逆境を闘争心に変え、東大合格、名家御曹司との結婚、双子の出産など、次々に目標を実現する。それでも婚家で蔑まれる彼女は、「子供たちに最高の教育を与えること」を自己実現の道具にするようになっていく。わが子のお受験で暴走し始めた彼女とその家族が皮肉な運命を辿っていくブラックコメディだ。
受験戦争に奔走する最中、双子の妹星良が筑波大付属小学校の受験会場で失敗したシーンの毒母りつ子の内面描写がとても印象的だった。
星良はグスン、グスンと洟(はな)をすすっている。その顔を見下ろすと、りつ子の中にこみ上げてくる衝動があった。
それが殺意だと気が付いたとき、さすがにぞっとして目を背けた。(本書129頁)
毒親に悩む子どもの目線で描かれる小説は今までにもあったが、本書では毒母に墜ちていく女性の側から「毒親問題」が生々しく描写されている。一人の女性を毒親へと変貌させた境遇がリアルで、読むのを止めてしまいたいほど辛い気持ちになるシーンも多数あった。また母親側から客観的に見た「毒親に締め付けられ委縮していく子ども」の描写も実に巧妙だ。本書は、近年何かと話題の「毒親問題」を鋭利に切り取った力作だと言えよう。
文=K(稲)
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