心の隙間に吹き込む秋風にも似た、透明で乾いた世界観

小説・エッセイ

更新日:2012/6/27

スカイ・クロラ - The Sky Crawler

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:森博嗣 価格:756円

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幸か不幸か、原作を読んだのは押井守監督によって映画化されたあとでした。
もちろんね。映画はあくまで映画で、こちらは文芸作品ですよ。
でもね、やっぱり行間に映像から受けた、はかないイメージが浮かんでしまうんですね。
映像を見る前に、本書を読んだらどんな印象を受けるのか? それはそれで、大変興味深いのですが、両方を体験するのは無理というもの。

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そのほかにも、読み進め方で印象が違ってくるのではないかと思うこともあります。
というのも、この「スカイ・クロラ」シリーズは本書が1冊目なのですが、物語の時系列でいうと、1番最後になっちゃうんですよ。
オチを提示しておいて、そこに至るまでの過程を書き続けていくのってすごいなぁ。
なんで、そんな芸当ができたのか。
いろいろな考えがあるでしょうけど。個人的にはテーマや設定の表現法に理由があるような気がするんですよ。

この「スカイ・クロラ」の世界はとても無国籍で、時代もはっきりしない。何よりひとり語りが基本の文体なのに、肝心の語り部、カンナミ君はキルドレという存在故に記憶も曖昧で、過去にはほとんどこだわらず、果たしたい目的らしい目的も持っていない。
シリーズを通して「生き続けている」上司の草薙水素も、説明役を引き受ける気はさらさらないようで、ただただカンナミ君に「生きること、死ぬことの意味」を問い続ける。

そんなんだから、読者もカンナミ君と一緒になって「繰り返す日々」に対する「死ぬことの意味」というテーマを作品世界の「におい」から読み取るしかない。
根底にはそんな構図があって、でも構成としてみせることはせずに、状況で語る。
秘密はその辺かな?
そんな風に読めましたよ。

今回、XMDF形式の電子書籍で読み返したのですが、「行単位で送れる!」という仕様を思い出してひとり驚いたりしました。ページではなくて、全体を俯瞰するときも%表示なんですよね。レイアウトを意識した小技は使えませんが、読み手の視力や癖などにあった読書スタイルがとれるのはいいかな。


すごい理屈だが、ここまで読み進めていると自然な流れに感じてしまう…

死ぬことは恐怖でも希望でもなく、ただ日常からの離脱

キルドレかどうかは問題ではなく、自然死なんてまだ想像できない若者なら誰でも1度は考えるよな

こういう感情をうまく言葉にされるから、のめり込んじゃうんだよなぁ