青い海、豊かな自然、釣り、自転車──のんびり楽しい“島暮らし”に癒される!『しまなみくるくる』

マンガ

公開日:2020/9/1

しまなみくるくる
『しまなみくるくる 1』(多平優香/芳文社)

 この春以降、リモートワークを経験した人の中には、「あれ、仕事って会社に行かなくてもけっこうできるな……?」と気づいてしまった人も多いだろう。そう、今やインターネット環境さえあれば、通勤電車で揉みくちゃにされなくても、家賃の高い都会に住まなくても、仕事も勉強も場所に縛られることはない時代。憧れの地域への移住や、話題のワーク(仕事)+バケーション(休暇)=ワーケーションに出かけたいという夢が、いっそう叶えやすくなったのだ!

 どこへ行っても生活できるなら、さて、どこで過ごそうか? そんな楽しい計画のおともにしてほしいのが、『しまなみくるくる 1』(多平優香/芳文社)というコミックだ。

 タイトルからもわかるとおり、本作の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ生口島──しまなみ海道が通る島。ひそかに釣りを趣味としている高校生・みうは、今日もきれいな海に釣り糸を垂れている。ところが……。

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しまなみくるくる

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 みうの静かな時間をかき乱したのは、自転車に乗った女の子。東京から引っ越してきたという彼女は、しまなみ海道を自転車で走ってきたものの、島についたところで道に迷ったのだという。みうは案内を買って出るが、彼女は、みうの空っぽのクーラーボックスにちらりと目をやり、「終わってからでもいいよ? ボウズみたいだし」。おっしゃるとおり、まだみうは一匹も釣果をあげていない。ムキになる気持ちと、自分の趣味に興味を持ってくれたことへのうれしさから、みうは彼女を釣りに誘った。そして──。

しまなみくるくる

 すっかり釣りを楽しんだふたりは、いざ目的地へ。そこで意外な事実が発覚し、みうと自転車の彼女・みかは、なんと一緒に暮らすことに!

しまなみくるくる

 田舎での不便な暮らしを、「新鮮で楽しい」とよろこぶみか。そんな彼女と過ごすうちに、みうに見える世界も変わりはじめる。クラスメイトの思いもよらない一面を知る、自分の世界をより広げてくれる人と出会う、新しく趣味になりそうなものを見つける。新しい土地を楽しむみかの隣にいると、みうにとってはなにも変わらないはずの環境が、新しく見えてくる。

しまなみくるくる

 読み進めるうちに驚くのは、モノクロで描かれている画面が、なんとも鮮やかに見えてくることだ。きらきらと輝く海、草木をそよがせるさわやかな風を、登場人物たちとともに体感している気分になれる。それはおそらく、登場人物たちの新鮮な驚き、よろこび、楽しみが、生き生きと描きこまれているから。彼女たちは、田舎暮らしの不便さまでも丸ごと楽しみ、興味を持って眺めたり、見つめ直したりしているからこそ、不便さの中にある豊かさや美しさを見出せるのだ。

 きれいな海、豊かな緑、釣り、サイクリング──憧れがすべて揃った島での暮らしを、ほのぼのかわいい女の子たちの日常の中に描く本作。旅行や移住の参考になることはもちろん、外出しづらい今だからこそ、本書を開けば気軽にできる“バーチャル島暮らし”を、のんびり楽しんでほしい。

文=三田ゆき